柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『二十歳に還りたい。』 なんと大川隆法原作・製作総指揮の新作が登場。死んだはずだよお富さん。いや、これが総裁直伝のイタコ術による映画作りというものなのか

 

公式サイトより

二十歳に還りたい。

監督 赤羽博
原作・製作総指揮 大川隆法
主題歌 小原ゆかり
出演 田中宏明、三浦理香子、永嶋柊吾、伊良子未來、上杉祥三、津嘉山正種

幸福の科学映画の登場である。大川隆法総裁の急死により、幸福の科学映画の行方にも大きな疑問符がつけられることになったわけだが、これはただトンチキなアニメが一本減るというだけのことではない。幸福の科学による保証興行が地方の独立系映画館の経営を支えていた部分もあるわけで、日本の映画上映の景色が大きく変わりかねない事件だったのである。危惧された幸福の科学映画の未来だったがなんと大川隆法原作・製作総指揮の新作が登場。死んだはずだよお富さん。いや、これが総裁直伝のイタコ術による映画作りというものなのか。はたして「原作」に当たる小説があったのかどうかは不明なのだが、どうもこの起伏を欠いたストーリーからは、大川総裁の過去の著作を適当に切り貼って「原作」と称しているのではないかという疑惑が拭えないのであった。そしてさらに気になるのが千眼美子(こと清水富美加)の不在。とりあえずは総裁死後も続く様子の幸福の科学映画だが、あきらかに惰性で続いているとしか思えぬ本作を見るかぎり今後は大いに不透明と言わざるを得ないのだった。

 

 

 

80歳の寺沢一徳(津嘉山正種)は一人高齢者介護施設で孤独な老後を過ごしている。「経営の神様」と呼ばれる卓抜な経営センスで一代で寺沢不動産を巨大会社にした寺沢だが、家庭には恵まれず、妻とは死別、後妻を迎えるが子供との折り合いが悪く別れる。子供の方も長男はオーストラリアに留学したまま帰ってこず、次男は音楽をやるといって飛び出したきり。一人残った娘は大酒飲みで、酔っぱらい運転で事故死してしまった(酷すぎる……)そんなこんなで彼を慰めてくれるのはボランティアの女子大生アスカ(三浦理香子)だけ。アスカは車椅子の寺沢を夕日のあたる土手に連れ出すと、太陽に向かって

「神様、寺沢さんに、ひとつだけ願いをかなえてあげてください」

 と祈る。よくわからない太陽信仰に押し切られ、寺沢も目をつぶって

「できることなら、もう一度20歳に還りたい」

 と祈る。するとどこからか「無償の愛に生きよ」と声が聞こえ、目をあけると彼は20歳になっていた。アスカと同じ富ケ丘大学のサッカー部選手である。

え! てっきりタイムスリップして20歳から人生をやりなおすのかと思ったら、現時点で20歳になるの!? じゃあ20歳までの彼の人生はどうなってるの? どうやら両親とかは彼が20歳だった60年前と同じ状態らしく、いろいろ辻褄が合ってなさすぎる世界である。この時点で落ちが読めてしまうわけですがね……

 

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tags: 三浦理香子 上杉祥三 伊良子未來 大川隆法 小原ゆかり 幸福の科学 永嶋柊吾 津嘉山正種 田中宏明 赤羽博

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