柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『Me? Xavier!』 なぜこんな映画を作ったのか――なぜザビエルなのか? なぜミュージカルなのか?ひたすら謎なばかりである。

 

公式サイトより

Me? Xavier!

監督 秋原北胤
脚本・技術統括・作詞 落合雪恵
音楽 クリヤ・マコト
出演 真島茂樹、坂元健児、緒月遠麻、スティーブ・エトウ、なかじままり、咲良、和泉元彌

 

「わからない」ばかり言っていると仮にも映画評論家を名乗っている人間としてどうなんだという気がしてくるわけだが、これは本当にわからないので正直にそう言うしかない。カエルカフェがわからない。なぜこんな映画を作ったのか――なぜザビエルなのか? なぜミュージカルなのか? ミュージカルについては、実は秋原監督本人が映画終了後のトークで説明してくれていたのだが、「昔からミュージカルをやってみたかったから」だそうで、つまり「特に理由はない」。たまたまマツケンとコネができてマツケン主演作を撮り、そのつてでマツケンサンバの振り付けもしたという振付師真島茂樹と知り合いになったおかげでミュージカルができるとなったのだろうけど、じゃあなぜザビエル!?  カトリックなのか山口県出身なのかなんなのか、きっかけはまったくわからないのだが、ともかくザビエルの日本布教をテーマにミュージカルを作ろうということになったわけである。でもなんでなの!? なぜ真島がザビエル役でなければならないの? ザビエルの従者としては、史実に基づいて実在の人物が登場するが、全員女性! なんで!? 別段多様性を考えたキャストとかではないと思われるのだが……いや、ファン役の緒月遠麻はちゃんと歌えたし踊れていたしさすが元宝塚ではあったが、彼女が男役を演じていることになんの理由もない。たぶんたまたまそこにいたから、という以上の理由はないと思われる。じゃあアマドール役の咲良は? ガングロ? ブラックフェイス? インド人だから? そのような理由ではないと信じたいよわたしは……

 

 

そういうわけでフランシスコ・ザビエル(真島秀樹)である。イエズス会の創設メンバーの一人であり、1549年にはじめて日本にキリスト教を伝えた人物として歴史に名をのこしている。映画がはじまると日本へ向かう帆船の船室。いやどこかのホテルの地下バーにしか見えないが、そういうところを突っこみはじめたらカエルカフェの映画は見られないので気にしないことにする。ザビエルの従者が女性だというのも気にしない。片言の日本語を喋っているのは、スペイン語が下手だという意味なのだろう。スペイン人たちはみな日本語で喋り、それをアンジロウ(坂元健児)が日本語に通訳して日本人は日本語で答えるという描写の中で、金髪のギャルだけが片言の日本語でコミュニケーションするのだが、これが日本語を喋っている意味ではないことがわかるまでに相当時間がかかった。一行は「アガペー(神の愛)」を日本語にどう訳すべきかと議論し、最終的に「御大切」という言葉を考えだすのだが、そもそも「愛」という訳だってなかったんじゃないかとか。

 

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tags: なかじままり カエルカフェ クリヤ・マコト スティーブ・エトウ 和泉元彌 咲良 坂元健児 真島茂樹 秋原北胤 緒月遠麻 落合雪恵

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