柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『フィリピンパブ嬢の社会学』 非合法に片足突っ込んだフィリピンパブ地方映画で町おこしとは春日井市も立派である。

 

 

公式サイトより

フィリピンパブ嬢の社会学

監督 白羽弥仁
原作 中島弘象
脚本 大河内聡
撮影監督 豊浦律子
音楽 奈良部匠平
出演 前田航基、一宮レイゼル、近藤芳正、勝野洋、田中美里、仁科貴、ステファニー・アリアン、津田寛治、飯島珠奈

 

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春日井市政80周年記念映画! 非合法に片足突っ込んだフィリピンパブ映画で町おこしとは春日井市も立派である。というか、てっきりフィリピンパブを社会学的視点で解剖する映画なのかと思ったら、参与観察でフィリピンパブ嬢を研究しようとピンパブに行った大学院生が嬢にハマってしまう……という普通のフィリピンパブ恋愛映画であった。実際にフィリピン人パブ嬢と付き合い結婚にいたった大学院生が原作を書いており、劇中の出来事はほぼ事実に基づくそうなので、「社会学」部分はもっぱら主人公のバックグラウンドにある、とご承知いただきたい。

 

 

名古屋の大学院生中島翔太(前田航基)は修士論文のために日本在住のフィリピン人の生活をフィールドワークしようと思いつく。カトリック教会でフィリピン人主婦を紹介してもらったりするものの、やはり最前線の取材がしたい……自分と同年輩の女性が考えていることを知る手段はないだろうか? とピンパブに突入。なんか理由をつけてるけどそこに助平心はないと本当に言えるのか、翔太くんよ! 右も左もわからぬままピンパブ嬢に奢らされるだけ奢らされた翔太だったが、たまたま出会ったピンパブマニアのお金持ちシバタ(近藤芳正)に気に入られる。翔太が「若い娘と話をしたい」というと、シバタが紹介してくれたのが別のピンパブにつとめる美人ピンパブ嬢ミカ(一宮レイゼル)である。さっそく日本にやってくることになった経緯その他質問をぶつけるが、「なんでそんなこと聞くの? あなたポリス?」と警戒されてしまう。帰り際に「アリガト」と抱きしめられ、電話番号も聞かれてウキウキ気分だが、もちろんこれは誰にでもやっている通常営業。なお、一宮レイゼル嬢ははじめて受けたオーディションで選ばれて映画初主演だそうだが、なかなかに魅力的で、この映画の魅力のかなりの部分を占めているのではと思われる。

それから毎日のように「今日も来てちょうだい(はーと)」攻撃を受ける翔太だが、乏しいバイト代からは週に一度行くのがせいぜい。店の外で会えないかと訊ねる翔太だが、それは普通に店外デート、同伴出勤というやつだ。ミカは指名客がノルマに足りず、罰金を取られたりしている。折しも七夕イベント、ミカは「千円でいいから!」と強引に翔太を誘う。いわゆる自爆営業という奴だ。札びらを切ってがんがんチップをはずむ周囲を見て、さすがに感じ入るところのあった翔太がお礼にとデートに誘うと、思いがけず受けてくれるミカ。

当日、帽子を目深に被り、店のお目付け役李さん(飯島珠奈)の目を恐れつつ、禁じられている店外デートに来てくれたミカ。ショッピングモールでのお買い物程度の他愛ないデートなのだが、日本に来てからは店とアパートを往復するだけだったミカにとってははじめてのお出かけである。ミカからフィリピンパブ嬢たちの事情を取材する翔太。かつては興行ビザで大挙来日していたフィリピン人だったが、人身売買の指摘があってビザ要件が厳格化され、フィリピンパブも激減した。ミカは三年の契約で来日したのだが、偽装結婚して働いているのだという。給料は月6万円という薄給。反社のかかわりを知った翔太は「警察へ行こう」と言うが、ミカは断固拒否「わたしは騙されてなんかない!」

 

 

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