柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『INTER::FACE 人工知能犯罪公訴部 FAITH』 世界征服もできそうな超AI。しかし世界を揺るがところにはまったく行き着かない

公式サイトより

 

INTER::FACE 人工知能犯罪公訴部 FAITH

監督・脚本・編集 下向拓生
撮影監督 名倉健郎
音楽 髙木亮志
出演 吉見茉莉奈、大山真絵子、入江崇史、澤谷一輝、大前りょうすけ、津田寛治、長屋和彰

 

第一部「ペルソナ
第二部「名前のない詩」

 

 

第三部にしてシリーズ完結編の本作、第一部「ペルソナ」冒頭で思わせぶりに登場した元市長(津田寛治)の収賄疑惑が取り上げられる。第一部で市長の秘書室長の自動運転車が事故で廃車にしたとか言ってた意味がさっぱりわからなかったのだが、これは思いもよらぬ伏線回収! でもほとんどの人はそんな話覚えてもいないよ! そしてこの三部作、最後はネットの海に生まれた人口知性体とのコミュニケーションという『攻殻機動隊Ghost in the Shell』みたいな壮大なサイバーパンクSFとなってしまうのだった。『センターライン』のアポジーペリジーみたいなAIカーナビがまさかこんなところに辿り着こうとは誰も思ってもみなかったのである!

 

 

 

 

今回、このシリーズの何がこんなに奇妙に感じられるのかようやく判明した。本作では、新任検察官天々音(吉見茉莉奈)は、AIが感情を持てば犯罪者として起訴できる、と言う。それであんなに動機なんかにこだわっていたのか。だが起訴のためのハードルはそういうことではなくて、AIを起訴することに意味があるのか、つまりAIを逮捕し、処罰を与えることに意味があるのか、つまりはAIには人権があるのかという、これまでもさんざん語られてきた問いかけなのである。だって、人権がないなら責任も取りようがないはずではないか。そのもっとも基本的な部分をネグっておいて、裁判の技術的なことばかり拘るのが、このシリーズ独特のグルーヴ感を生んでいるのである。

さて、かつて医療機器導入をめぐる汚職疑惑があった島崎前市長(津田寛治)が、暗号通貨「ラウンドコイン」で1500万円の入金があったと警察に届け出る。入金者「坂梨守人」には心当たりがなく、こんな金をもらういわれはないから、というのだ。さっそく「サカナシモリト」の自宅へ行く天々音(吉見茉莉奈)だったが、彼が数日前に孤独死したことを知らされる。貧乏下宿にわびしい一人暮らしだった「サカナシ」はとうてい大金を持っているようには見えなかった。天々音はパソコンと、書きかけらしい論文を持って検察庁に帰る。途中、AIバッジの「テン」が別AIに乗っ取られるような挙動を見せるのだが、それは誰も気にしないのでなかったことに。

 

 

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tags: AI 下向拓生 入江崇史 吉見茉莉奈 名倉健郎 大前りょうすけ 大山真絵子 津田寛治 澤谷一輝 長屋和彰 髙木亮志

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