Bをかたーる首都圏版。ミムラユウスケWEBマガジン

圧巻の富樫劇場も「ベンチメンバー含めての今の千葉ジェッツの強さ」。船橋アリーナ一丸でつかんだ死闘の勝利

 

ベンチからのポジティブな影響がたくさんありました。(西村)文男も(小川)麻斗も……。あとは(佐藤)卓磨! 全力でディフェンスをやって、相手のリズムを崩してくれたと思います」

言葉の主は、死闘を終えたあとの千葉ジェッツのパトリックHCだ。

2戦先勝方式のCS準々決勝で広島ドラゴンフライズと勝負を決するためのGAME3に挑んだ千葉が、最後はホームチームの意地とBリーグ史上最高勝率と最多勝利の記録を打ち立てた底力を見せて、96-91で勝利を収めた。

ベンチスタートの選手たちをたたえるパトリックHC

この試合のハイライトはどこか?

そう問われれば、第3Q(クォーター)の最後の1分31秒間を挙げずにはいられない。

残り1分31秒の時点でのスコアは【千葉59-57広島】。試合開始からおよそ4分20秒が過ぎた時点からジェッツはリードを保ち続け、第2Qには最大で11点差まで広げていた。しかし、決してあきらめない広島に2点差にまでつめよられ、広島に2本のFT(フリースロー)が与えられた。なお、あの時点での広島のFT成功率は77.8%だった。入る確率の方が圧倒的に高かった。

それでも――。

月曜日の夜に4314人がつめかけた船橋アリーナのジェッツのファンやブースターによる熱烈なブーイング(*『ブースター・ディフェンス』と呼ばれている)の影響もあり、広島はFTを1本外した。ジェッツはかろうじて1点のリードを保って、攻撃を迎える。

だだ、その攻撃は実らず、今度は広島の攻撃へ。

そのなかでマークが入れ替わった。千葉の177cm、72kgの西村文男が、広島の208cm、116kgでセンターを務めるブラックシアー・ジュニアをマークする形になった。当然、広島はそこにボールを入れてきた。すでに千葉のチームファールは5つを超えていた。このような局面での常套手段である「ファールをして止める」という選択肢は使えない。

それでも、ジェッツのなかでバスケットボールIQがもっとも優れていると言われる西村は、ファールにならないように気をつけながら、ブラックシアー・ジュニアにボールが入る前から手を出して簡単にプレーさせないことで、冷静さを奪おうとしていた。そんな工夫が実ったのはその直後。ブラックシアー・ジュニアは、おもわずトラベリングの反則を犯したのだった。

ホームでのCSを戦うのが5シーズン目となったジェッツのファンやブースターも、初めてホームでのCSを戦ったころと比べて、バスケットボールIQをはるかに上げている。攻守の素晴らしいプレーが出たときだけ沸くのではない。今では、相手の攻撃に少し時間がかかるだけで、まるで24秒の制限時間がすぐそこまで迫っているようなテンションで歓声をあげ、相手チームのプレッシャーをかけるまでになった。

だから、西村の守備での頑張りに場内は大きく沸いた。そして、今度は西村と代わってエースの富樫勇樹が登場。会場はさらに熱を帯びていく。

そこからの45.6秒間は圧巻の富樫劇場だった。一人で6得点をたたき出し、試合の行方は決まった。

最後に広島の驚異的な追い上げがあったとはいえ、決定的だったのはやはり、この第3Qの最終盤の一連の流れだった――。

 

この試合では得意の守備だけではなく、9得点を記録して、攻撃でも貢献したのが佐藤卓磨だ。昨シーズンまではスタメンの常連だったが、今シーズンはベンチスタートが多くなった。それでも佐藤が腐ることなんてありえない。

試合後にパトリックHCからチームを救ったベンチスタートの選手の筆頭として賛辞をうけた佐藤は、決定的な活躍ができた要因を明かした。

「血を繋げる」ための責任感を口にした佐藤

「(ジェッツに来てから)3シーズン、(西村)文男さんがベンチから出て、どんな仕事をするのか(を学ぼうとしていた)。そのときの課題だったりとか、試合の流れをよく見てプレーしている姿を見て、『さすがだな!』と思っていました。

自分も今季はベンチスタートが多くなったので、そういった目線から見ることも(さらに)多くて……。

(小川)麻斗だったり、新戦力の選手も入ってきて、僕も中堅の年齢になってきました。先輩として、文男さんみたいに『しっかりと後を継ぐ』というほどではないですけど、そういうふうにやっていかなければと思って、やっています」

西村のように、ベンチからスタートする状況を逆手にとって良いプレーを見せようとするお手本がいる。だから、スタメンの常連だった佐藤は、ベンチスタートが多いシーズンでも、与えられた場所で全力をつくすことにフォーカスできる。

それだけではない。佐藤の立場にたってみて考えればわかるはずだ。

ベンチスタートが増えた今シーズンから“慌てて”西村のマネをしようと思っても、すぐに成果が出るなんてことなどありえない。スタメンであろうが、ベンチスタートであろうが、先輩から色々なことを吸収しようという向上心を持って3年間も取り組んできたから、CSというビックゲームで良いパフォーマンスを出せたのだ。

そして、忘れてはならないのは、ベンチスタートの選手が躍動したもう1つの意義だ。

このシリーズは土曜日から3日続けて試合が行なわれるという、レギュラシーズンではありえない日程で行なわれた。実際に、試合後に広島の選手からは「最後は体力が残っていなかった」という主旨の声も聞かれた。一つひとつのプレーの強度が高いCSのような試合では、チーム全員で戦う力がないと上へと登ってはいけない。

 

バスケットは1人でやるものではない。チームスポーツなのだ。

 

パトリックHC就任前から、努力を当たり前のこととして続けてきた西村がいて、それをお手本とする佐藤がいる。

そして、今シーズンから加わったルーキーの小川がそこに続いた。

さらには、「ブースター・ディフェンス」を見せたジェッツのファンやブースターに、ベンチで休息をとってからコートに出てきて決定的な仕事をしたエースの富樫がいる。

船橋アリーナ一丸ととなってつかんだのが、高確率の3Pと折れない心を持つ難敵広島からの勝利だった。

 

普段はキャプテンだからという立場で特別なコメントをすることはなく、プレーでチームを引っ張ることの多い富樫だが、試合後にはこう言い切った。

コートには5人が出て戦っていますけど、ベンチのメンバーも含めて、今の千葉ジェッツの結果につながっていると思うので。それぞれの選手が自分の役割を理解してやっているところが、一番の強みかなと思います。

スタッツに表れないところで、地味に頑張ってくれる選手もいます。特に、CSになってからは『誰が何点を取った』とか、『誰が何分出た』というのは誰も気にしていないと思うので。

チームが勝つこと。本当にそれだけを目標に、全員が同じ方向を向いてできているのが良いことなのかなと思います」

 

 

来週も船橋アリーナでは試合が待っている。相手はジェッツのライバル、アルバルク東京だ。島根スサノオマジックとのアウェーでの死闘を制して、成長をとげた強敵である。広島とのGAME3で、CS史上最速での個人通算150アシストを達成した富樫は言う。

「(アルバルクとの対戦は)ファイナルで2回敗れた記憶しかないという感じです。ライバルというのはもちろんですし、CSで倒したことは……ないのか。ファイナルで2回敗れて、それだけという記憶があるので。『今年こそ!』という思いはあります」

選手登録されている15人の選手に、練習生の金近廉。さらには、パトリックHCを筆頭としたスタッフ陣。そこに4000人を超えるジェッツのファンやブースター。船アリ一丸となって戦うジェッツは、アルバルク相手の“3度目の正直”を目指して、CS準決勝へと歩みを進めていく。

 

GAME3のスタッツはこちら

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*スタッツの読み方*

縦の軸:「1Q」は1Qだけのスタッツ、「2Q」は2Qだけのスタッツです。

「HT」というのはHT突入時の総スタッツ。「3Qまで」は3Q終了時のスタッツ、「最終」は試合終了時のスタッツです。

横の軸:左から2Pシュートの成功数、試投数、成功率。3Pシュートの成功数、試投数、成功率。FT(フリースロー)成功数、試投数、成功率。

「OR」は「オフェンスリバウンド数」、「R」は「トータルのリバウンド数」。「AS」は「アシスト数」。「TOV」は「ターンオーバー数」。「ST」は「スティール」数。

「TOV得」はターンオーバーからの得点数。「ペイント」は「ペイントエリアからの得点数」。「Sチャンス」は「セカンドチャンスポイント数」。「Fブレイク」は「ファーストブレイクからの得点数」です。

数字に黄色い背景がかかっているもの:通常と比べて多かったり、高かったりするもの。

赤い字で書かれているもの:通常と比べて少なかったり、低かったりするもの。

太字で書かれているもの:上記2種類のうち、著しい値のとき。

 

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