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「人の心を動かせるチームや文化を」篠山に改めてそう思わせた、川崎CSでのTシャツ無料プレゼント秘話<後編>~川崎とディアスタッフによる新時代のパートナーシップ

(c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

 

クラブとスポンサー企業が共に戦うパートナーとして、ファンやブースターを喜ばせる新たな取り組みを行なった。もちろん、その事実だけでも十分に成功と言える。

ただ、川崎ブレイブサンダースをサポートするディアスタッフ株式会社の眞野俊輔も川崎のクラブスタッフも、そして選手も、少し不安を覚える要素があった。

「果たして、どれだけの人がTシャツを着てくれるのだろうか?」

実は、2022-23シーズンの川崎と、2021-22シーズンの川崎とでは、ファンやブースターへのメッセージとして異なる点があった。それが、本拠地とどろきアリーナを「赤く染めてください」というメッセージを“声高に”発するか、発しないかの違いだった。

クラブの顔である篠山竜青は言う。

「昨シーズン(2021-22シーズン)はクラブの方針というか、後押しもあって、『とどろきを赤く染めたい』というメッセージをよく口にしていました。

ただ、今シーズンは、あえて、そういう言葉を使わなかったんですよね」

川崎は2028年10月には京急川崎駅隣接エリアに約1万人収容可能なアリーナ(および、それを含む複合エンターテインメント施設)を建設しようとしている。現在は5000人超が収容できるとどろきアリーナでの多くの試合で満員になっているが、将来的にはその倍近い人が毎試合観戦に訪れるような魅力を持つクラブになろうと努力を続けている。

そのためには、初めて観戦に訪れるような人たちに、気兼ねなく足を運んでもらえる環境を作る必要がある。その一方で、これまで熱心にサポートしてくれたファンやブースターにもきちんと配慮しないといけない。

これは言い換えると、以下のようになる。

「ブレイブレッド」と呼ばれる、えんじ色のチームカラーを身につける覚悟がある人でなければ観戦は控えるべきだというような感覚を与えること、つまり、観戦のハードルを上げるようなことは避けたい。

その一方で「赤く染めなくてよい」と声高に言うこともできない。そんなことを言えば、熱い想いをもって川崎を応援してくれているファンやブースターの一部を失望させる可能性があるからだ。

今よりも大きくなるための過渡期にある川崎というクラブで、篠山は「個人的に」こんな風に考えている。

「新アリーナができることになって、バスケを取り巻く環境がどんどん大きくなっていくということもあるのですが、個人的には、自由に応援してもらいたいと思っているんですよ。『声を出さなきゃいけない』とか、『ブレイブサンダースのグッズを身に付けなきゃいけない』とか、『赤い服で会場に入らないといけない』とか、そういうことではなくて。

そもそも、川崎というのは、本当に雑多で、色濃い街です。そんな街のクラブを応援してくれるみなさんだから、一人ひとりの好きなように見てもらいたいなと。もちろん、熱心に声を出したり、グッズを身につけている人も大歓迎なのは当たり前なのですが」

ただ、「自由に」とか「気ままに」と強調しすぎると、友人を連れてきてくれる熱心なファンや、一緒に応援する楽しさを周りの人に教えてくれるブースターに対して、不快な思いを味わせる可能性がないわけではない。だから言葉を選びながら、篠山はこう話す。

「みなさんが自由に、気軽に応援してくれる中でも、CSのような舞台になったら、『思わず、声を出してしまう』とか『思わず、配られているTシャツを着てしまう』というような状況を作りたいという想いがあります。

『毎試合応援に来ないといけない』とか、『チームカラーのグッズを身につけなければいけない』という空気を作るのではなく、僕らのプレーに触れることで、ついつい『応援に行きたくなる』とか、『配られたTシャツを着たくなる』ような状況になってもらう。そういうものが僕の理想とする未来ですかね」

現在の状況を整理すると、さらなる成長のために気を使わないといけないほどの人気をすでに川崎は獲得している。ただ、それで満足していてはだめだ。

新アリーナが毎試合のように満席になる日に向けてさらなる進化も必要なってくる。

それに、ライトなファンであっても、コアなファンであっても、常に多くの人が観戦に訪れ、川崎が日本のスポーツ界を代表するようなクラブになることを嫌がる人はいないはずだ。

だからこそ、2022-23シーズンの川崎はそれまでと比べて、観戦に訪れる人に必ずしも多くのことを求めなかった。今回のTシャツプレゼントのプロジェクトもそうだ。『CSだから絶対に着てください』というメッセージとともに入場口で配るのではなく、席に置いていた。そして、それを会場の多くの人が自発的に着て、応援した。その事実こそが、この試合の運営面での最大の勝利である。

眞野は言う。

「初戦の1時間前くらい、けっこう結構遅いタイミングで僕は会場に着きました。頑張ってTシャツを用意させてもらいましたけど、その一方で『そこまで多くの人が着てくれることはないかもしれない』という想定もあったんです。

でも……外の売店で並んでいる人が見えた時点で、すでに相当の数の人が着てくれていたのが視界に入ってきて。あれには感動しましたね」

 

(c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

 

そして、最大の感動は試合が始まるときに訪れた。

「売店で見たときにも嬉しかったですけど、やはり、第1クオーターが始まる時のみなさんの声を聞いたときです! 川崎のファンがいる席で赤くないところなどないと思えるくらいに会場が赤く染まっていた。試合が始まるときには『ウォー! 行くぞ!』みたいな空気が感じられて。川崎のブースターのあれはすごいなと思いました。同じ色をまとって一体感が生まれたのかなと、すごく感動しました」

 

(c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS

 

結局、今回のTシャツ無料プレゼントプロジェクトは、(川崎はよくファミリーというメッセージを発信するが)川崎ファミリーはどこまでも広がっていけるという、無限の可能性を示すこととなった。

そんな無限の可能性を追い求めるために、試合を見に来てくれる人たち、応援してくれる人たちのすべてにとって大きな存在になれるよう、選手も眞野も挑戦を続けていこうとしている。

篠山は言う。

「もちろん、勝ち進むことが1番の恩返しだと思いますし、選手としては結果でみなさんへのお礼をしたいです。

ただ、バスケットボールの世界では勝つ時もあれば、負ける時もあります。それでも、どんな試合でも、人の心を動かせるチームや文化を僕らは築いていかないといけないですよね。『とどろきアリーナに来るのが楽しい』とか、『Tシャツをもらえるのが嬉しい』と感じてもらうのにふさわしいプレーや試合をしないと。

そうやって人の心を動かせるチームになることは、川崎街のクラブとして、追い求め続けないといけないところだなと思っています」

眞野もこう語る。

「新アリーナのプロジェクトが動き始めていたり、ブレイブサンダースという企業としての事業規模とはどんどん大きくなってきています。

今回はこうしてやらせてもらえましたけど、現在のうちが支援できることには限りがあります。その一方で、大きな金額を出せる大企業は山のようにある。経営者としての立場からすると、ブレイブサンダースがそういうところと付き合っていくのは当然の判断だと想うんですよ」

もちろん、クラブから邪険に扱われていると感じることはないし、川崎の営業部の板橋大河からは常々、こんな声をかけてもらっている。

「今、こうして支えてくれるみなさんを大切に想っているんです!」

そして、それが本心からの言葉だと感じるからこそ、眞野はこう考えるのだ。

「『誰も不幸にならないためにはどうしたらいいのか?』。よく考えてみると、『うちが頑張っていくしかない』という答えに行き着くんですよね。ブレイブサンダースは魅力的なコンテンツを作り出しているから、規模も大きくなっている。そんなみなさんの求めに応え続けていきたい。そのためには、うちも成長しないとダメですよね。

僕らも緊張感を持って、お互いに頑張っていきたいです。やはり、僕らはブレイブサンダーが好きだから」

スポーツの世界だから、どんなに素晴らしい努力をしたとしても負けることはある。

ただ、プロスポーツが学生スポーツと決定的に異なるのは、負けたら終わりではなく、負けたとしても、また顔をあげて、次の試合に向かって、明日に向かって、顔を上げていかないといけないことだ。

プロとしての価値は、負けたあとに表れる。ズルズルと痛みや悔しさを引きずるのか。あるいは、それを糧にしているのか……。

だから、今回のCS準々決勝で横浜ビー・コルセアーズに負けたからすべてが否定されるわけではない。むしろ、今回は負けたものの、将来に勝つための種は、確かにはまかれた。

そう思わせるような、プロジェクトだったことを忘れてはならない。

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