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「『B1優勝』」は現実的ですか?」「はい、いけます!」長崎、アルバルク戦大金星の価値<天皇杯>

写真提供:アルバルク東京

 

今シーズンの天皇杯で最大のサプライズ。この試合はカップ戦の醍醐味を表現する一戦となった。

アルバルク東京は今シーズンのBリーグをけん引しており、優勝候補の筆頭である。そのホームで行なわれた天皇杯3回戦、1部に昇格したばかりの長崎ヴェルカが金星をつかんだ。

試合前、長崎の前田健滋朗HCはチームに呼びかけた。

「今残っているのは(天皇杯を勝ち抜いてきた)10チームしかいないんだ! 今日ここで勝つと、また1つ、ヴェルカの名を歴史に刻むことになる。この1試合はめちゃくちゃ大きい価値があるぞ!」

こうして、リーグ全体で現在7番目の勝率を残している長崎は、優勝候補のアルバルクを破ったことで、日本バスケ界のトップ6の仲間入りを果たしたことになる(*天皇杯3回戦で勝ち上がった4チームと、準決勝から参戦する千葉ジェッツと琉球ゴールデンキングスの6チーム)。昇格初年度のチームの奮闘としては、クラブ史だけではなく、日本バスケ史にも刻まれるかもしれない。

この試合の意義について考える前に、まずは大きく2つあった長崎の勝利のポイントを振り返ろう。

1つ目が、「ファーストパンチ」と呼ばれる試合序盤の効果的な滑り出しに成功したこと。

対戦相手のテーブス海も「出だしが本当に悪かった。相手にオープンでのキャッチ&シュートを許さない(ようにしないといけなかった)ところで、6本すぐにやられてしまいました」と悔やんでいる。

この試合の各Qの長崎の3Pの成功数と成功率は以下の通り。

1Q:6本/54.5%
2Q:1本/20%
3Q:1本/25%
4Q:1本/14.3%

ちなみに、2Q以降の確率と成功数が一気に落ちているのは、アルバルクがしっかり対策を立ててきたこととも関係している。試合中の修正力の高さは、さすがは優勝候補という感じだ。

経験で劣るチームが勝つためには、このような「ファーストパンチ」が大きな意味を持つのだが、この日の1Qの長崎はそれを証明した。

2つ目が、3Qの攻防に成功したことだ。

実は、3Qの残り6分34秒の時点からの3分弱の間に長崎は10点連続して決めた。これは「長崎の強度の高い守備」と「裏目に出てしまったアルバルクの選手たちの責任感」があったから。

まず、長崎の守備について解説する。

この試合を通して、彼らがアグレッシブな守備を続けたのは試合を見ていた人もわかっただろう。これによって、アルバルクが良い形で攻撃できない場面が目立った。実際、アルバルクのターンオーバーは3Qの10分間で5回と、チーム力を考えればかなり多いものになった。そして、それは長崎が守→攻の素早い切り替えからの速攻という特異な形で得点することにつながった。

次に、アルバルクの選手たちの責任感について考察しよう。

これはデイニアス・アドマイティスHCの以下の言葉によく表れている。

「オフェンスリバウンドで3人から4人も(ゴール下に取りに)入ってしまうことがありました。(相手の速攻に対応する)セーフティ(なポジションにいる選手)が、1人しかいないケースもあって、相手の(速攻からの)レイアップにつながってしまったと思います」

「状況をなんとか打開しよう」と責任感を発揮した選手たちがアルバルクには多かった。それは強いチームの証拠でもある。

しかし、この日はそれでも思うようにオフェンスリバウンドをとれなかった。オフェンスリバウンドを果敢に取りに行き、上手く取れなかった場合、自分たちが攻めるゴールの側に人が多く、自分たちが守るゴールの方向に人が少なくなる。つまり、相手に速攻のチャンスを与えてしまうことになる。

この2つの要因から、長崎による衝撃的な10連続得点が生まれ、結果的にその差が、最後に勝敗を分けることになった。

長崎は今シーズンのBリーグの台風の目となるようなチームだ。とはいえ、試合前は「アルバルク有利」とする声が大きかった。世間の意見を覆すような結果は、果たして、どんな意味があるのだろうか——。

 

試合後、馬場は開口一番、手ごたえをかみしめるように、静かに語りだした。

 

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