松沢呉一のビバノン・ライフ

「世界でもっとも楽しい都市ランキング2部門で東京が1位」のカラクリ -飲酒文化と風営法 (松沢呉一) -2,882文字-

「楽しい都市」世界第5位に選ばれた東京の秘密

 

vivanon_sentenceまずは数日前に公開されたハフィントン・ポストのこの記事をお読みください。

 

 

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「すげえぞ、東京」「すげえぞ、日本」と、自信を失った日本人としては嬉しくなりますよね。

元記事はこちら。どうせいい加減な調査だろうと想像していたのですが、GOEUROはヨーロッパでは人気の高いサイトのようで、その利用者を対象にした調査であり、ざっと見たところ、この調査はそこそこ信頼できそうです。

改めてその内容を検討すると、興味深いことがわかってきます。

 

 

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都市名の右側にPublic Drinking Allowedという項目があります。公共の場で酒が飲めるのかどうか。日本は路上で酒を飲んでも、公園で酒を飲んでも、海水浴場で飲んでも問題なし。過去に問題になったのは駅のホームで飲むことくらいじゃないでしょうか。酔っ払って公園でチンコを出して捕まった芸能人もいましたが、チンコが問題になったのであって、酒が問題になったわけではありません。

しかし、少なからぬ国ではこれらは禁止されており、国の法律で禁止されていなくても、州や都市の法で禁止されていることもあります。

上位25都市を見ると、13の都市で禁止されていることがわかります。さらに上位10都市を見ると、2都市のみが禁止されており、ベスト3はどれも禁止されていません。

つまり、この投票では、その都市が酒に対して寛大なのか厳しいのかが大きく影響していることがわかります。

その横のLast Callは、「営業として酒を何時まで提供できるのか」でしょう。日本で言えばコンビニのような店で販売することも時間制限のある国や都市が多いのですが、ここでは飲み屋での酒の提供のことかと思います。日本では居酒屋や小料理屋、牛丼屋などでアルコールを出すことに時間制限はなく、飲み屋は届けを出せば24時間可能(風営法対象営業は別)。よって「NO」です。

ここに出ている時間は「法律がどうなっているのか」であり、実際の運用はまた別ではあって、「あれ? ここは朝まで飲めるはず」「ここは路上で飲めるはず」という都市があったりするのですが、あくまで黙認されているだけのよう。とくに観光収入に依存している都市では、観光客には寛大になるってもんです。

それにしても世界各国で、こういう制限のある都市の方がずっと多いことに驚かされます。上位25都市のうち、17都市までは時間制限があるのです。これもまた「楽しい都市」の投票に影響している可能性がありますから、下位ではさらに制限のある都市が増えるのではなかろうか。

また、東京と同じく「NO」になっていても、リカーライセンスが厳しい国や都市も多く、一般の飲食店では許可なく酒が出せなかったりしますので、日本は先進国において、もっとも酒に対して寛大な国のひとつと言えます。

投票した人たちがそこまで正確に把握した上で評価しているわけではないにせよ、「ビールがバカ高かったけど、朝まで飲めて楽しかった」と評価する背景には、こういった規制の有無が影響している可能性があるってことです。

 

 

酒に対する法の違い・意識の違い

 

vivanon_sentence2位のロンドンでは午前2時まで。以前は午後11時までだったのですが、数年前に改正された模様です。2位になったのも、この改正が影響しているのかもしれません。

この件については前にイギリス人に聞いたことがあります。

「もっと飲みたい時はどうするの?」
「誰かの家で飲む」

こういう地域ではホームパーティが盛んになるわけです。

1位のベルリンは公共の場での飲酒は禁止されておらず、時間制限もありません。これはドイツ全体ではなく、いくつかの都市だけだったと記憶します。その中でもさらに地域を限っていたはず。つまりは特区です。観光客はどうせそういう場所にしか行かないですから、ここでは他は無視しているのでしょう。

対して日本ではどこの地域でもほとんど法的な制限はない。条例で飲み屋を出せる地域が限られているくらいです。私は酒を飲まないですけど、日本はこれでいいと思います。それに対してWHOから「規制せよ」と勧告されていたりするわけですけど、日本には日本の背景や事情というものがあります。ホームパーティをやろうにもうちが狭いし、そんなことをやろうもんなら、すぐに近隣の人たちが警察に通報します。

それによってアルコール依存症が増えたりもするわけですが、私は飲まないので、んなことは知らんですし、息苦しいこの国で、どっかガス抜きできるところを作らないと、みんな自殺しちゃいます。タバコを規制し、その上酒を規制するんだったら、早いところ、マリファナを解禁せえ。

 

 

   風営法改正論議の中で見られた詭弁

 

vivanon_sentenceこのランキングを見ると、どうしたって風営法改正論議を思い出さずにはいられません。「風営法からダンスを外せ」と求める人には、「日本ではダンスが禁止されている。こんな国は日本だけ」「北朝鮮か」「オリンピックをやるのに恥ずかしい」なんてことを言いたがる人たちが多かったわけですが、それでもクラブの評価は満点であることに注目。全然恥ずかしくないのです。

これも「トウキョーじゃ、朝まで酒を飲んで踊れるぜ」ということが加味されたポイントだろうと思います。それは別の基準から違法だったわけですけど。

 

 

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