松沢呉一のビバノン・ライフ

今後も多くのクラブは違法営業であり続ける(松沢呉一) [シリーズ 風営法改正案を読む」 -3,079文字-

興行場法とは?

 

vivanon_sentence今回でこのシリーズは終了して、次回補足をやろうと思っていたのですが、補足を先にやっておきます。蛇足とも言えるのですが、その方が今回の改正で、どの業種が損をするかよりわかりやすくなりますので。あるいは、今回の改正では、クラブ以外の業種があまりにないがしろにされていることがわかりやすくなりますので。

今回の改正はたんにキャバレーがダンス営業のメリットを失っただけではなく、興行場法のメリットも失うことになりそうです。

興行場法は、映画館、劇場、寄席、コンサートホール、野球場、競馬場などの施設を環境衛生の面から規制する法律であり、管轄は厚労省です。懲役刑も罰金刑もあります。風営法に比べるとシンプルな法律ですので、目を通しておくといいと思います。

定義は以下。

この法律で「興行場」とは、映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸又は観せ物を、公衆に見せ、又は聞かせる施設をいう。

前回も書いたように、講演、講義、対談、座談会など、しゃべりだけではここで言う「興行」になりません。これを入れると、寺の説法会も、なんとか教室も、そろばん塾もすべて興行になってしまいかねないのと、しゃべりだけでは、飛んだり跳ねたりして埃が舞うような状態にはならないためかと思います。

よって、ロフトプラスワンのようなトーク居酒屋はトークだけなら興行になりません。また、不定期で飲み屋で弾き語りのライブをやったり、落語の会をやる分には、興行場の許可は不要です。一回こっきりのイベントでいちいち場所の許可を得るのは煩雑であり、その影響も出にくいという判断でしょうし、月に1回2回のライブをやっているジャズやシャンソンの店も許可は不要です。

これについては条文を見ただけでは、また、各自治体の説明を読んだだけではわかりにくく、以前東京都に問い合わせをしたことがあります。どのくらいの規模で、どのくらいのペースでライブをやると許可が必要になるのか聞いたのですが、ケースバイケースとのことで、はっきりとした数字は出てきませんでした。もっともではあって、建物の構造やライブの種類、客席の様態によって事情は大きく違います。この曖昧さがこの法律の特性にもなっていようかと思います。

しかし、連日予定を組んでライブをやるライブハウスは興行場に他なりません。DJが音楽の演奏をしているのか否かという議論はあれども、DJの名前を銘打って営業しているクラブも興行場になりましょうし、事実、ライブハウスやクラブで興行場の許可を得ているケースもあります。地域にもよりますけど、オオバコのライブハウスやクラブでは許可を得ているところが多いのではないでしょうか。

一時、一部クラブ関係者の間で、「興行場法の許可をとれば風営法の許可がなくてもクラブは営業できる」という間違った認識が広がっていたようですが、風営法とは目的が違い、管轄も違う法律ですから、興行場法の許可をとっても風営法の許可がないとクラブは営業できません。また、風営法の許可を得ていても、同時に興行場に該当する店は興行場の許可が必要です。

つまり、クラブ営業は飲食については食品衛生法、建物や設備については興行場法の規制を受け、営業の様態については風営法の規制を受け、それぞれにクリアする必要があり、興行場法と風営法については多くのクラブが違法状態を続けてきたということになります。

 

真面目にやってきたキャバレーがワリを食う改正

 

vivanon_sentence歌謡ショーやダンスショーを見せるキャバレーも興行場に該当するのですが、今までキャバレーはホテルのショーとともに対象から除外されていました。それぞれ衛生面については別の法律で厳しく規制されてきたためです。具体的にはキャバレーは風俗営業の一号で規制されてきました。一号は他の号より、その点が厳しいのです。

しかし、今回の改正により、風俗営業から一号が消滅して、現行二号のキャバクラ、ラウンジなどと同じ扱いとなると、除外措置が外れて、改めて興行場法の許可が必要になるのではないか。現行二号は除外になってませんので。

ここがはっきりせず、あるいは旧一号の許可を得ていたキャバレーは引き続き除外になるのかもしれないですが、もし改めて許可が必要になるとすると、キャバレーの多くは困ったことになります。

風営法と興行場法では同じく設備等に厳しく規制がなされてきたとは言え、規制内容が違っていて、興行場法をクリアしようとすると、改装や設備投資が必要になりますし、場内で喫煙ができなくなるなど、営業にも支障がでます。

しかし、興行場法は厳しく運用されてはいません。管轄の違いもありますが、同じ厚労省の管轄でも、食品衛生法のように、興行場法違反で営業停止を食らったとか、告発されて罰金や懲役をくらったという話は聞かない。食中毒と違って、はっきりと見える形でその影響が出ないためと、上に書いたように、どうしても曖昧な部分が残る法律であるためだろうと推測しています。

そのため、仮に除外から外れても、おそらくキャバレーも黙認ということになるんじゃないかと想像はできますが、これまで風営法も興行場法もクリアしてきたのに、今回の改正でグレー営業になるわけです。今までさんざん違法営業をやってきたクラブのために、遵法を徹底してきたキャバレーがどうして損をしなければならないのかって気持ちになりましょう。

 

多くのクラブやライブハウスは今後も興行場法に違反し続ける

 

vivanon_sentenceずっと私は「興行場法をどうするのか」と言ってきて、風営法を改正したところで、次は興行場法でクラブやライブハウスは締め付けられるのではないかとの危惧もありました。これでは元も子もない。

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