松沢呉一のビバノン・ライフ

風営法改正で、得をする業界・損をする業界(松沢呉一) [シリーズ 風営法改正案を読む」 -3,637文字-

誰が得をし、誰が損をする法改正か

 

vivanon_sentenceこのシリーズは今回で終わります。

今回の改正案はクラブの問題だとなお思っている人たちが多いのでしょう。たしかにきっかけはそこにありました。

Let’sDANCE署名推進委員会から始まって、議員連盟が結成され、その案は通らず、最後は警察庁主導で法案の方向が決定していきました。報道を見ても、最後の最後までテーマはクラブ、あるいはダンスにあったわけですけど、ここまで見てきたように、現実に大きな影響を受けるのは、クラブやダンス教室だけではないのです。

現行の法案は、警察の都合が色濃く反映されていて、さすがに法律をよくわかっている人たちはたいしたもんだと思います。

いったい誰が得をして損をする法改正なのか、改めて見てみましょう。

今まで警察がクラブを摘発すると、やいのやいのと言われたわけですが、今後、許可が出ない地域で無許可営業をする店が出てきた時に警察が踏み込んだ ところで、「クラブ業界が望んだ通りに法律ができたのに、まだ法を守らないのか」ということですから、警察批判はほとんど起きないでしょう。むしろ、クラ ブへの風当たりが強まり、「法律を変えたところであいつらは守れない」と言われます。クラブは今までと違い、遵法で営業するしかないのです。

なおかつ、これによって、しっかり警察は「いつでも摘発できる領域」を確保しています。その領域を拡大したと言ってもいい。警察はなんら損をしておらず、得しかない。感心しないではない。

クラブ業界と利用者は、いくらかの不確定要素を除いて、方向としては文句はないわけです。「ダンスを外せ」と言っていた人たちは条文から文言が消えたことで納得する。実質的には今までと同じくダンスは規制されるわけですけど、ともあれ朝までできる。条例でできない地域では潰れる店が出てくる可能性があるとしても、客は選択肢があるので、朝までやっている店に行けばいいと納得する。利用者にもほとんど損はない。

社交ダンス業界は教室にしてもホールにしても風営法の規制から完全に逃れられますから、圧倒的に得をする。講師がいなければダンス教室ができなかったのが今後は必要がなくなり、講師資格制度のうまみが減った点だけはマイナスですが、全体としては得るものの方がはるかに大きい。ここもさすがだと感心します。しっかり政界に食い込んでいる業界だけのことはあって、目立つことなく、実をとっている。

IMG_4130深夜営業しない一般の飲食店は、なんら許可も届け出もいらず、ダンス営業が可能になりますが、そんな恩恵を受ける店は一部なので、ほとんど今までと変わらず。何も文句はないでしょう。

深夜営業の飲食店で遊興営業してきた店は、特定遊興飲食店営業の許可をとらなければならない。許可をとれば、晴れて唄って踊れる店も合法で営業できますが、許可をとらないと無許可営業として摘発される。

遊興営業しない店でも、知らずに遊興営業してしまいかねないので、ビクビクしながら営業をすることになります。今までやってはいけなかった遊興営業が許可をとればやっていいということにはなるにせよ、深夜酒類提供飲食店はマイナス点の方がはるかに大きい。

キャバレーはいいことがひとつもない。ダンスや歌謡ショーなど、今までキャバレーの売りだった営業が、深夜営業の店でもできるようになってしまって、その有利さが消えます。興行場法的にもグレーになるのかもしれない。他より厳しい規制を遵守してきて、なんにも悪いことをしていないのに損ばっかり。

つまり、大いに得をする人たちがいる一方で、そのために、大いに損をする人たちが一方で出てくるのがこの改正案です。しかも、遵法でやってきた業種がもっとも損をする。理不尽です。

 

クラブ業界への批判は避けられない

 

vivanon_sentenceこうなると、「クラブのヤツらのせいでこんなことになった」という批判が起きかねない。もっとも得をしているのは社交ダンス業界ですが、彼らは存在を見せない。批判は、言い出しっぺであり、一貫して表に出ていたクラブ業界に向かう。

キャバレー業界はそんな声を上げるほどにも力は残っていないでしょうけど、深夜酒類提供飲食店は数が多いですから、どこかの段階でクラブ批判が噴出するのではないか。

原則論を言えば、その批判はスジ違いです。クラブ業界としては自分らのことを再優先に考えるのは当然。他の業界が何もしないでいたことが問題なのであって、「他をとやかく言う暇があるんだったら反省せえ」って話。自分らの利益は自分らで守るしかなく、自分らの主張を自分らでするしかない。それをさぼってきたのが悪い。

スジとしてはそうなのですけど、他業種に影響がない方向の改正も可能だったことを考えると、「クラブのヤツらが」と言われてしまうのもやむを得ないと思います。他業種への配慮がなさすぎました。もちろん、改正案をクラブ業界が作ったわけではないのですが、その下地を作ったのはクラブ業界であり、メディアです。

では、どういう改正が可能であり、どういう改正であれば他業種への影響が少なかったのか、あるいは他業種にもメリットがあったのか。今から元に戻すことは無理なのだろうと思いますが、改めて考えてみます。

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