田村泰次郎著『肉体の門』に見るパンパンの実像- [ビバノン循環湯 11] (松沢呉一) -2,645文字-
「日テレの内定取消の背景にある語られない差別意識 ・・・そして売春差別と従軍慰安婦問題」に書いたように、しばしば売春をする女たちは「犠牲者としての意思なき哀れな女たち」という見方をされます。実際にはもっと多様であり、もっと複雑です。もちろん、時代や業態、地域などによる特性はあって、そういったイメージともっともかけ離れているのが焼け跡のパンパンかと思います。
もっぱら米兵たちを相手にする「洋パン」と日本人を相手にする「和パン」もまた特性が違い、ざっくり言ってしまうと、和パンは不良グループです。これも地域によりますが、他の業態に比して、比較的、和パンは均質です。グループが形成され、なわばりもはっきりしていて、地域間の抗争を繰り広げていました。ここにフラリとやってきた女が商売しようもんならリンチです。異質な存在は弾かれる。
今回はそれをよく伝える『肉体の門』についてメルマガの連載「松沢式売春婦」に書いたものを循環します。これを読み直したら、一般に思われている街娼の哀れなイメージがいかに間違っているのかについても触れていましたので、グッドタイミング。
本文に出ている写真は小説が出てまもなく空気座が演じた芝居のパンフ。「姐御」って感じっすね。
田村泰次郎著『肉体の門』
発行所/風雪社
発行日/昭和22年10月10日
定価/55円
B6 258ページ
最初からカバーはない模様。表紙はリンチシーンを描いたもの。
ラク町(有楽町)の街娼たちの生き様を描いたこの作品で、田村泰治郎は肉体派を代表する存在として、一躍人気作家となった。これ以降も売春をする女たちが登場する作品を数々書いているが、「肉体の門」に登場する女たち(というより少女たち)が懸命に生きる様の鮮やかなきらめきに勝るものはない。
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