松沢呉一のビバノン・ライフ

ヘイトクライムが多発するドイツ-朝日新聞を添削する 3-(松沢呉一) -2,004文字-

 

ダン・パークの表現-朝日新聞を添削する 2」の続きです。

 

 

ヘイトスピーチが成立する領域

 

 

vivanon_sentence前回取り上げたダン・パークのように、法の適用外、規約の適用外で、ヘイトスピーチの効果を狙う人たちを見ると、もっと法を適用しやすくすればいいと考えたくもなります。

しかし、人種差別撤廃条約においても、難民はそれだけでは人種差別のカテゴリーではありません。

スクリーンショット 2015-11-10 16.45.13

 

「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身」が該当のカテゴリーであり、「難民」という「行動」「状態」をここに入れることは難しい。難民は難民の段階では外国籍であり、自国籍と同じ取り扱いをすることは不可能です。また、難民条約でも、表現が規制されるわけではない。

人種差別撤廃条約に基づいてヘイトスピーチ規制法を制定しているほとんどの国で同様のカテゴリーになっていて、これに性別、性指向、性自認、信仰などが加えられていますが、難民というカテゴリーを入れている国はおそらく皆無でしょう。

これを差別のカテゴリーに入れると、「難民を入れるな」「難民をこれ以上入れるな」「難民審査を厳しくしろ」といった主張はすべてヘイトスピーチになって、「難民は無制限に入れろ」と主張しないとアウトになってしまいます。政治的主張として難民政策をどうするのかの議論さえできなくなる。

 

 

ヘイトスピーチとヘイトクライムのリンク

 

vivanon_sentence前回見たダン・パークだけでなく、また、スウェーデンだけでなく、ヨーロッパでは難民を突破口にするかのようにレイシストたちの表現が溢れ出しています。

スクリーンショット 2015-11-09 17.17.56それとリンクするように、この10月、多数の難民を受け入れているドイツでは武装したネオナチグループが難民収容施設を襲う計画までが発覚しています。「インディペンデント」ほかの記事にはその押収品の写真が出ていますので、よーく見ていただきたい。

事前に食い止められて、男女13名が逮捕されていますが、メンバーの自宅から、ハーケンクロイツのついたヘルメットなどが押収されています。これはナチスマニアの単なるコレクションかもしれませんが、複数の銃器も発見され、「ボール爆弾」とやらの使用も計画されていて、もしこの計画が実現していたら、多数の死傷者が出たでしょう。

日本では大きく報道されていないため、実感が薄いのですが、そこまで事態は逼迫しています。

 

 

対抗しているのは法ではない

 

vivanon_sentence上の記事の最後にも出ているように、死者までは出ていないにしても、ネオナチによる暴行、放火事件が多発しており、ヨーロッパ各国の政府としても、難民に対する誹謗中傷の類いや集会は規制したいはず。しかし、できないでいます。

 

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