さらに続く殺人事件-広島マントル嬢インタビュー 4-[ビバノン循環湯 123] (松沢呉一) -4,153文字-
「タクシー運転手連続殺人事件-広島マントル嬢インタビュー 3」の続きです。
もうひとつの殺人事件
このインタビューの直前、もうひとつ殺人事件が起きており、こちらもマスコミで報じられていた。
男が山中で灯油をかけられ焼き殺されているのが発見される。殺されたのはこの地では少数派となる男の客引きだった。おばちゃんではなく、おじちゃん。そして、すぐにその養女になっていた女が逮捕された。つまりはこの弥生町を舞台にした殺人事件だったのだ。
殺した側も殺された側も、このみさんはよく知っていた。
「あの女は太っていて、別嬪でもないし、頭も悪いけ、客がつかん」
—殺された客引きの専属だったの?
「そうそう。あの子は稼げないけ、古賀ちゃんは手放そうと思っていた時にちょうど交通事故に遭って入院した」
古賀というのが殺された男の姓である。これは本名であり、この街での呼び名でもある。
「女はフリーでやっても、客をつけてくれる客引きはおらんことを知っているから、この時に病院に通って、養子になったんだよ」
—そういう関係だったら、客をつけざるを得ないね。
「それもあるんだけど、あの女を抱えたって客が満足せんけ、客引きとしてもやっていけんよ」
—そりゃ、次は他に行くよね。共倒れ。
借金の踏み倒し、保険金
この事件は全国メディアで報道されていたとは言え、繰り返し、その真相を掘り下げていくほどの事件でもなく、このみさんは私も知らなかったし、マスコミも把握できていなかった真相を次々と語りだした。
「でも、あの女には計算があって、借金があって、ローン会社からも借りているから、名前を変えたいわけよ。最初の目的はそれだったんだと思う」
—頭は悪くても、悪知恵は働く。
「そうなんよ。古賀ちゃんは五十代半ばだったかな(正確には五七歳)。そのくらいの歳になると、先々不安になってくる。本人は“老後の面倒を見てもらうんじゃ”と言いよったけど、そんな健気な女じゃないわけ。“あんた、あの女に騙されとるよ”ってみんなで言うても、聞かんかったけん」
—だからって、なんで殺すの?
「なかなか客がつかんけ、あの女は生活保護を受けようと思って申請を出したら、通らんかったんよ。こういう女だから何するかわからん。古賀ちゃんに保険でも掛けているんじゃないかって話をしていて、古賀ちゃんに聞いたら、“いや、ワシは掛けとらんよ”って言う。“一度調べてみんさい”ってみんなに言われて調べたら、やっぱりあの子は古賀ちゃんに黙って保険を掛けとったんよ」
—保険金殺人なんだ。
「たぶん。古賀ちゃんは、足が悪くて、他の仕事もできんし、歳もとってきたし、女にモテるタイプでもない。稼ぎが悪いけ、安いアパートに住んでいてな。女は古賀ちゃんをいいカモだと思ったんじゃろ。古賀ちゃんも、あの子は稼げんことはわかっていて、かわいそうじゃけ、抱えとった」
—おばちゃんが言っていたけど、いい人だったんでしょ。
「うん、おとなしくてな。だから、あの子は“これはいける”と見よった」
睡眠薬を飲ませ、灯油をかけて
—その二人は男女の関係?
「あるところからそうなった」
—若い女に言い寄られて、その気になったのかな。
「あの女もうちと同じくらいの歳だったからね」
正確には三十二歳。
「でも、あの女は他に男がいたっちゃ。古賀ちゃんは知らんかったけど」
—えーっ!
そんな話は週刊誌には一切出ていなかった。新事実。
—そいつが共犯?
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