松沢呉一のビバノン・ライフ

「積極的合意」は自己決定を促す-yes means yesの意義と実現性 6- (松沢呉一) -2,680文字-

SMもセックスのうち?-yes means yesの意義と実現性 5」の続きです。

 

 

 

ふしだらな女に守るべきものはない

 

vivanon_sentence「18歳の女子大生が泣きながら語った」という記事を読んだ時に多くの人がイメージするのは、「可憐で真面目で奥手の女子が無理矢理に」といったものかと思います。雑誌もこういう場合は、そのイメージを強調します。そのイメージの中では瑕疵のない純粋な被害者でいられます。

実際にはA子さんはヤリマンで、行き当たりばったりのセックスを繰り返し、この日は一週間もセックスしていなかったため、メッチャ、セックスをしたかったのに、栃木の野郎はセックスもしないで逆さ吊りにしたことを怒っているのですけど、そうなると、誰も同情してくれない。

「セックスに積極的に合意した」「彼女自身もセックスをしたかった」という事実は、第三者にとってのA子さんのイメージを根底から書き換えてしまうのです。

その日に会ったばかりの相手とセックスの合意をした時点で、「ふしだらな女」になる。あいまいにしておけば疑いのない哀れな被害者として救済されるのに、ふしだらな女は制裁さえされる。この段階ではB男君以上の蔑視をされかねない。

清純な女性の貞操は大事にされなければならないのですが、ふしだらな女には守るべきものがないので、逆さ吊りにされてバイブを突っ込まれてもいいってことになってしまう。

警察だって、こういうイメージに判断を左右されましょう。イメージを書き換えられる前のA子さんが警察に相談に行くと、「それはひどい。なんとか事件化しましょう」というので、警察も立件できそうなところを探して、強制わいせつ容疑で栃木氏を取り調べることになります。

しかし、取り調べで、栃木氏が積極的合意がなされていたことを告げた途端に「事件化は難しい」となりそうです。

すべての行為がセックスの範疇に入れられてしまって、セックスの合意ですべてが合意されたと見なされやすいのと、「ふしだらな女」化によって守られなくなる。

これでいいのだと私個人が言いたいのではなく、「クーリエ・ジャポン」の記事(元記事は「ル・モンド」)が指摘していた「積極的合意」によって起きるマイナス点は、おそらくこういうことなのでしょう。

※下着ブランドfeminist-styleのパンツ。以下同

 

 

先入観に流されるべからず

 

vivanon_sentence積極的合意」があったことで、A子さんのイメージが変化する現象は、少なからぬケースで、「被害者としての若い女性」が喚起するイメージが現実とズレているかもしれないことを示唆します。

もちろん、イメージ通りのこともありますが、世の中にはひどい女がいるのです。その実例を書いた原稿がありますので、そのうち出しますが、「●●に暴力を振るわれた」という告白がまったくの虚言だったという話。受け入れられない愛情がねじれた末の表現です。

これ以外にもあるのですが、私の知っている範囲でも、こういう例が現実に起きていますから、イメージに流されず、事実関係を見極めることがまず必要で、無条件に「女がそんな行為に合意するはずがない」と決めつけるのではなく、あるいはその個人をいくらよく知っているからと言って「あの男がそんなことをするはずがない」と決めつけず、ひとつひとつ丁寧にかつ冷静に検証すべきです。

 

 

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