松沢呉一のビバノン・ライフ

性風俗に学べ-yes means yesの意義と実現性 7- (松沢呉一) -2,976文字-

「積極的合意」は自己決定を促す-yes means yesの意義と実現性 6」の続きです、

 

 

セックスするしないは私が決める

 

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下のバナーはノースカロライナにあるダーラム大のものですが、ここにもあるように、yes means yesは、自分の体をどう使用するのかを決定する権利は自分にしかないのだと自覚し、それを表明することです。

これは「女の体は男のもの」「女の体は社会のもの」としたがる人々に対する宣戦布告だとさえ言えて、ここにyes means yesの大きな意義があります。

「私の意思を尊重しろ」ということですが、同時にこのことは「意思表示ができない人は損をする社会」の到来を意味します。意思表示することがデフォルトの社会になれば、できない人は意思なき人と見られ、軽んじられるのは当たり前。

男がセックスするつもりでホテルに行ったら、拘束されて放置された時に、そこだけを切り取って犯罪であると見られにくいのと同じ扱いに女が近づくことを受け入れられにくいと感じる人たちもいるでしょう。

今までは守られてきた部分が守られなくなるのですが、もっと大きな目的を達成するために、そこは甘受するしかなかろうかと思います。

 

 

すべては合意で決定される

 

vivanon_sentenceここ数回論じてきた「積極的合意がなされると、それ以降のすべてが合意されたように受け取られる問題」は解消可能です。男であれ、女であれ。相手が年上であれ、年下であれ。

積極的合意」のルール化がなされた方が、合意確認の際に、さらに細かな約束事を交わすことも可能になり、合意外の行為は不当であり、それをやられた場合は強制わいせつ等が成立しやすくなろうかと思います。

米国においても、そういう提案はなされています。すべて事前に合意を得るべしと。これによって、アバウトにセックスという広い行為を合意したのでなく、合意した範囲が明示され、違反行為も明確になります。

栃木健児都知事候補とA子さんがサインした「積極的合意書」に、「SM的な行為はやらない」「道具を使用しない」という一文が入っていたら、栃木健児はやっぱり悪いヤツに思えてきましょう。

B男君も同じです。拘束されることを明確に拒否したのに拘束されたのであれば、相手が女であっても暴力。ここではno means noが機能します。ここまで至ればB男君も警察に行きやすい。

コンドームについての取り決めがとくにないままセックスをして、コンドームをつけなかったために病気に感染したところで、これだけで相手を責めることは難しい。相手が感染性の病気になっていることを知りながら、コンドームを使わなかった場合は傷害罪になり得るとはいえども。

しかし、事前にコンドームを使用することに合意していたのに、相手がつけなかったことで感染すれば、そのことを相手がわかっていようとわかっていまいと責任を問えるでしょう。

積極的合意」はセックスに合意したことによって合意の範囲を広げてしまいかねないリスクがあるのと同時に、細部までを決定することによって、合意の範囲をさらに明確にすることができるのです。

 

 

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