松沢呉一のビバノン・ライフ

禁酒運動から脱すべし—下戸による酒飲み擁護 8- (松沢呉一) -2,575文字-

「アルコールハラスメント」は日本特有? —下戸による酒飲み擁護 7」の続きです。

 

 

 

戦前の禁酒・禁煙運動から進歩なし

 

vivanon_sentenceここまで書いてきたように、酒の弊害の対策は、それぞれに違う。にもかかわらず、「現に酒で死んでいるんだから酒が悪い」「一気飲みが悪い」「アルコールハラスメントだ」という発想は短絡的すぎます。

「飲めない人もいるので、全員参加の一気飲みはやめよう」「無理に人に酒を勧めるのはやめよう」という呼び掛けに留めないで、アルコール依存症や飲酒運転など、他の酒の弊害までをあげて、酒自体、宴会自体、一気飲み自体までを否定しようとするからおかしなことになってしまうのです。

そういう主張をする人たちも、酒を飲めなくすることまでを求めているのではないのでしょうけど、発想としては戦前の禁酒運動・禁煙運動と同じです。潔癖症の排除主義で世の中がよくなるはずがないことは、米国の禁酒法で証明済みですから、そこまで主張しないだけで、本質は同じでしょう。

酒やタバコをなくせば社会がよくなると短絡するのと同じく宴会やバーベキューを批判する。ハラスメントと呼ぶべき例だけをハラスメントと言えばいいのに、ハラスメントだらけだとしたがる。

このような禁酒・禁煙運動を推進した存在としてナチスが知られます。酒、タバコは不要、ユダヤ人もジプシーも障害者も売春婦も同性愛者も不要。

そこまでは至りませんでしたが、日本では救世軍が禁酒運動に積極的でしたし、今もそうです。アルコール依存症の更生活動など、個別に見た時には社会的に有益なことをやっていて、それで救われた人々もいるのですから、そこまでを批判すべきとは思いませんが、背景にあるのには酒の全否定であることは押さえておくべきだろうと思います。

ここまで繰り返し書いてきたように、彼らは廃娼運動にも積極的でした。

この人たちは酒やタバコ、売春がなくなれば社会がよくなると短絡し、その背景にあるものを見ようとしませんでした。いつまで同じことをしているんだか。

※批判対象として、禁酒運動関係の資料もうちには多数あるのですが、すぐに出て来ないので禁煙の資料を。これは禁煙同盟が出していた「禁煙の日本」昭和15年5月発行号。禁煙同盟にも、山室軍平やその長男である山室武甫など、救世軍関係者が参加しております。廃娼運動も禁煙禁酒運動もすべて発想は同じです。

 

 

理不尽な言い草に対しては酒を断固擁護する

 

vivanon_sentence実のところ、私も「酒でどれだけ人が死んでいると思っているんだ。酒が入っての喧嘩でどれだけの人が怪我をしたり、死んだりしているのか。酔っ払い運転で轢かれて亡くなった人がどれだけいるのか。アルコール依存症でどれだけの人が苦しみ、家族や周りの人たちまでを苦しめているのかわかっているのか」と言うことはあります。

酒を飲んでいるくせに、「タバコの害がぁ」と言うような人たちに対しては対抗上、そのようなことを言わせていただきますけど、あくまで対抗上の話であり、「自分の利害だけで、他者の楽しみを否定してんじゃねえ」ってことです。

宗教団体は「酒ダメ」「タバコダメ」「ギャンブルダメ」「婚姻外セックスダメ」という具合にすべて一貫しているのでまだ認められるところがあるのですけど、自分が嗜むものは擁護して、関係ないものは否定する態度は信用がならない。自分かわいさのダブスタです。

私はタバコを吸っていない時期でもタバコ擁護。酒を飲まない今でも酒擁護。今は性風俗にも行かず、ギャンブルも一切しませんが、原則擁護。それぞれ改善すべき点はありましょうから、それぞれに改善すればいいと思っています。私は私で一貫しています。

酒を飲まないことで損をしていると思っている人たち、酒で嫌な思いをした人たちは、こういう場合に酒や酒飲みの攻撃をしたがるのですが、楽しめている人たち、救われている人たちがいるんですから、他人のことはほっとけばいい。問題のある部分はそれぞれ適切な方法で解決しましょう。

 

 

一部の例で全体を否定する発想は問題を解決しない

 

vivanon_sentenceまとめて「酒が悪い」という発想は解決を遠ざけます。酒が悪いのではなく、それぞれの原因になっている「絶対的服従の関係」「暴力による強制」「労働時間外の労働」「人事のミス」「職業選択のミス」などの問題です。それを酒や酒飲みを敵視することで解決しようとすると、酒飲みたちの協力も得られなくなる。

 

 

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