AVを正しく評価できているとは思えない—田中美津インタビューの疑問点 2-(松沢呉一) -2,929文字-
「肯定しきれず、否定しきれず—田中美津インタビューの疑問点 1」の続きです。
田中美津インタビューの間違ったAV評価
田中美津インタビューの問題点をニコニコしながらスルーしようと思っていたのに、そうはいかなくなりました。
改めてその問題箇所を見ておきます。
今まで何本かAVを見て、「男の欲望ってこんなものなの?」「ワンパターンで金太郎アメみたい」と思っていました。「(男が女を)征服する」とか「力の誇示」とか、描かれていることがどれも似たり寄ったりで、まるで女は消費されていく品物みたい。こういうものがものすごい数で作られているわけですから、AVを見ていると男のコンプレックスの深さや生き難さを感じてしまいます。前から、この男目線で作られているAVを女性たちにこそ見てほしいと思っていました。
AVはワンパターンかどうか。
AVは「(男が女を)征服する」「力の誇示」といったものが主流であるのかどうか。
それらを女は観ていないのかどうか。
AV総体を「何本か」観ただけでわかるのかどうか。
これらの疑問のいくつかは、安田理央著『痴女の誕生』を読めばわかることです。話はそれで終わりなんですけど、私は私で、以下これらの疑問について論じていくことにします。
昨日、何人かで、あのインタビューにおけるAVの評価について論じ合っていたのですが、「今現在のAVはあのような評価に該当しないものが多い」というだけではなくて、過去においても、「あんな評価に該当するものが主流だった時代なんてないのではないか」という話になりました。
裏ものを除いて、私が最初に観たAVは竹下ゆかりの「私を女優にして下さい」です。この頃は、ちょっとかわいい子がオナニーをしているだけで衝撃だったわけです。
宇宙企画を筆頭とした単体アイドル路線においては、かわいい子が出ていればよく、続いて疑似であってもからみがあればいいということになっていき、やがて黒木香や豊丸のように淫乱おねえさん系の時代になって今に至る。
90年代以降、全部すっ飛んでますが、私はその辺の時代を知らないのです。
今まですべて通して観たAVは200本くらい
批判に入る前に、私の個人的な話をしておきます。どうでもいい内容かと思いますが、「私程度では胸張ってAVを語ることはできないと判断するのが当然であり、この程度も観ていない人たちは、AV総体を語る資格はないってことを自覚すべし」ってことをわかっていただくために書いておきます。
また、私個人が観てきたものを説明するだけで、十分に田中美津さんによるAVの評価は一面的なものでしかないことも理解できようかと思います。
私が三十数年の間に観たAVの本数は100本は超えるとして、200本には届かないかも。「洗濯屋ケンちゃん」を入れてこの本数です。
これは最初から最後まで通して観たものの本数です。一部観たものはこの十倍、あるいはそれ以上になるかもしれないですが、一部しか観ていないものは除いてます。また、映画館で上映されるポルノ映画の類いも除いてます(それがパッケージになったものも)。
AVに無関心でい続けたのは、近代日本のエロ本を極めようと決めた段階で、「映像までは手が回らず、本を読む時間がなくなる(戦前のエロ本は読物中心ですから)」ということから、映像を対象から外したためです。当時はビデオですから、印刷物に加えてビデオまで保存するのは無理ですしね。
それまでもそんなには観てないですから、この決断は私にとっては難しくない。
ついでに言っておくと、紙であっても、江戸以前のものはこの時に除外してます。一般の人以上に知識はありますが、遊廓についても、江戸以前のことにあまり触れないのはそのためです。だって、江戸時代の資料は高くて買えないですもん。明治以降のものなら高くても買える範囲なので、近代についてはリアルタイムに出ていたものを自分の目で確認していけます。
※その成果が『エロスの原風景』です。第二弾、第三弾も出す予定だったのですが、ペイラインを超えたとは言え、そんなに売れなかったものですから、やる気が失せました。
寿司は動いていい
以来、「寿司は動いていいけど(回転寿司のことね)、エロは動かなくていい」と言ってきました。
「エロだったらなんでも知っているのだろう」と誤解した編集者から原稿依頼が時々はありますが、ある一本のAVについて書くこと、あるいはある特定ジャンルについて書くことはできても、「昨今の流行り」だの「AVの総括」だのといったテーマの原稿は私には無理ですから、断ってきました。
「200本観ていれば十分」という意見もあるかもしれないですが、その200本も、内容が偏り過ぎなのです。
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