別人格に刺されたバーのママ—怪談ではない飲み屋街の怖い話 1-[ビバノン循環湯 201] (松沢呉一) -3,143文字-
ムックに書いた「飲み屋街の怪談」の取材では、ちいとも怨霊や妖怪が出てきてくれず、困り果てたのですが、生身の人の怖い話は次々と出てきました。そっちの話が面白くて詳しく聞いていて、これはこれでメルマガでまとめています。そちらも循環しておくことにしました。
私、刺されたことがあります
飲み屋の怪談を集めた時に、面白い話がいっぱいありました。幽霊ではなく、生身の人間怖い話です。ムックの原稿にはほとんど反映されていないので、改めてまとめておきます。
あるバーのママの話です。「どこの誰かわからないようにして欲しい」ということなので、すべて伏せます。名前は「ママ」で統一します。幽霊はそんなに移動しないでしょうけど、生身の人間はまたいつ襲ってくるかもしれませんから。
冒頭の話のみ、ムックの原稿で簡単に触れてまして、この話も中途半端に書くのはよくないかと思って、その相手が病気だったことについては触れておらず、単に酒癖が悪いという話にしています。実際のところ、何が何だったのか正確にわからないですけど。
私が店に行ったのはたしか8時台。この店としてはまだ早い時間だったため、他に客は一人もおらず、店に入るや否や、ママに「幽霊を見たことはない?」といきなり聞いてみました。もちろん、以前から面識があるがための図々しさです。
「全然見たことがない。怖い話が嫌いだから、聞かないようにしている。時々、“店の隅に何かいる”とか“今ここに女の人が座ってませんでしたか”とか言いたがる人がいるじゃないですか。ああいうのは聞こえないふりをしてます」
そのまま引き下がるわけにはいきません。「なんかあるでしょ」と食い下がりました。
「生身の人間の方が怖いですよ」
定番の展開です。
「私、刺されたことがありますよ」
殴られ続けた二年間
幽霊とは関係がないのですが、詳しく教えてもらいました。
「19歳の浪人生の時から、1歳年上の人と2年くらいつきあっていた。その人が酒乱で、酒を飲むと暴力をふるうんですよ。会うたびに殴られてボコボコにされていた。いつもアザや切り傷があって、当時は実家に住んでいたので、母親に“悪い友だちと付き合わないように”って言われていて、ケンカをしているんだと思っていたみたい。そのうち、“なんかおかしなことをしているんでしょ”と言われて、“まずい、殴られているいることがバレたか”と思ったら、“SMはやめなさい”って(笑)」
彼女のお母さんは水商売をやっているので、そういう情報をある程度は知っていたよう。
「本当にそう思っていたわけではなくて、カマをかけたんだと思いますけどね」
それにしても、こんなことを言う親は珍しい。
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