松沢呉一のビバノン・ライフ

女子高の制服が好きな兄—妹への異常な愛情 上-[ビバノン循環湯 309] (松沢呉一)-3,073文字-

1999年に漫画雑誌「パイク」の連載に書いたものですが、雑誌に出したのはダイジェストのようなもので、原文は長い。

本文にも書いているように、私の原稿に何度か佐野君は登場しています。当時は事前に許可をもらっていましたが、この原稿の時点ではすでに連絡がとれなくなっていたので、無許可です。同僚によると、佐野君は私の原稿に自分が登場することを喜んでいたそうなので、これも怒りはしないと思うのですが、その後どうなったのかまったくわからず、家族が登場することでもあるので、個人が特定されそうなことは伏せておきました。佐野という名前は実際に彼が使っていたものですが、雑誌用のペンネームであり、本名ではないので、そのままにしておきました。

最近も近いところで精神病院に入院したのがいて、先日退院したので話を聞いたのですが、彼女の場合はパニックになると何をするかわからないためであり、病気自体は重くない。その点、佐野君は相当重症。その後、社会復帰できたのかどうか。

 

 

 

妹の写真を持ち歩く兄

 

vivanon_sentenceかれこれ十年近く前から知っている編集者でS君というのがいる。

S君には十歳以上離れている妹がいて、彼女はまだ高校生だ。歳が離れているせいなのか、S君は妹を溺愛していて、一人暮らしをしている彼はよく妹に電話し、妹も電話をしてくる。また、妹が「お兄ちゃんがいないと寂しい」というので、時折、東京近郊にある実家に帰る。妹のいない私には羨ましくなるほど仲のいい兄と妹なのだ。

しかし、羨ましいだけでは留まらず、時に理解不能になる。S君はいつも妹の写真を持っているのだ。その写真を見ると、たしかにかわいいのだけれど、つきあっている彼女の写真ならまだしも(こんなことも、大の大人になってからの私はしない)、いくらかわいいからって、妹の写真を持ち歩くかぁ?

「持ちたくて持っているんじゃなくて、妹が“いつも持っていて欲しい”というから持っているだけですよ」とS君は言い訳する。そんなことを言う妹も、妹の言いつけに従うS君もまとめてヘンである。

ここまで至ると、背徳の匂いもしてくる。まさかと思いつつ、「さてはセックスしたことあるだろ」と聞いてみたが、そういうことではないらしい。していたところで、「ありますよ」と答えるわけもなかろうが。

他にも妹を溺愛している男はいて、姉と弟とは違い、兄と妹の関係はどこか近親相姦めいた愛情になりやすいところがあるような気がしないではない。

Joshua Johnson「Edward and Sarah Rutter」

 

 

制服マニアの佐野君

 

vivanon_sentenceエロ本の編集をやっている佐野君もそんな一人。彼については拙著『大エロ捜査網』に詳しいが、女子高生の制服マニアである。

一緒にいると、「あの制服は××女子ですね」と即座に校名が出てくるだけでなく、「あれはコシノジュンコのデザインです」と制服に関する蘊蓄を披露してくれる。さらには、「あの高校は坂の上にありまして」と高校の情報も教えてくれる。なんでそんなことを知っているかと言うと、東京近郊の女子高にはたいてい行っているからだ。

登校途中の女子高生たちをビデオに撮るため、朝から学校に出掛けていき、バッグに仕込んだカメラで撮影をしている。

誤解されないように言っておくが、彼はパンチラを撮るのではなく、その制服を着た生徒たちが登校している風景を記録として撮っているだけである。フェチなので、中身を撮りたいのではなく、制服が制服として機能しているところを撮りたい。制服研究のためのフィールドワークの一環だ。

と言っても怪しいことには違いがないので、生徒に気味悪がられないように、仕事では必要のないスーツ姿で撮影に行っている。

「教師に見えるようにと思いまして」

これなら女高生の群れの中に混じることができるわけだ。

彼のいる編集部ではたいてい出社は昼頃なのだが、彼は早くに女子校巡りをした日は、朝の9時頃には会社にいて、大変真面目な勤務態度である。

いくら擁護しても理解されないだろうことをわかりつつ擁護しておくと、女子高生は純情無垢の象徴であり、汚されてはならない神聖な存在である。命をかけてそれを守りたいとさえ思っている。

そのため、規則違反の格好をしている女子高生を見ると、「崩れ女子高生」と呼び、嫌悪する。

「彼女たちは女学館の生徒なのに、ルーズソックスですね。女学館は指定のソックスしかダメですから、あれはどこかで履き替えたのだと思います。困ったもんですよ」

と風紀委員みたいなことを言う。中身が大事なのでなく、制服が大事であり、中身が制服を裏切った状態が「崩れ女子高生」だ。

私は茶髪でケバくて、パンツが見えそうなミニのギャル高校生だったら少しは興味を抱けるが、佐野君にとって、ギャル女子高生は聖なる女子高生イメージを破壊する存在でしかない。

ちみなにこれは彼の仕事とは関係がない、ただの趣味だ。私の中にはない趣味だが、彼のマニアぶりが好きで、私は編集部で彼を見かけると、そんな話をたっぷり聞かせてもらう。

Peter Carl Fabergé「Russian peasant girl」

 

 

妹を溺愛

 

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ロリコン、女子高生マニア、覗きマニア、SMマニア(ここでは主にS)、フェチといった人たちには、男兄弟で育った人が多いとも言われる。目の前で姉や妹が大股開きして屁をこいたり、鼻糞をほじったりしている姿を見ると、幻想なんてなくなっちまうってもんだ。

しかし、佐野君は女子高生の制服を何着も持っているくらいのマニアのくせに、妹がいる。彼のように、妹がいる女子高の制服マニアは相当珍しいのではないか。佐野君の場合は、満たすことのできぬ妹への愛情を、女子高生のに制服へと広げたとも思われる。そのくらい妹が好きなのである。

 

 

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