松沢呉一のビバノン・ライフ

フィンランド方式は日本では無理—男女別学肯定論を検討する/第二部(3)(松沢呉一) -2,958文字-

落ちこぼれないフィンランドの教育—男女別学肯定論を検討する/第二部(2)」の続きです。

 

 

 

日本にフィンランド方式導入は土台無理

 

vivanon_sentenceいかに素晴らしくても日本でフィンランド方式を採用することは無理でしょう。フィンランドのやり方の一部を真似しても確実に失敗します。

制度と文科省の役人と教員と国民の意識を全とっかえしない限り無理。とくに時の権力に媚びへつらう文科省の役人がフィンランドのような教育を容認できるはずがない。

フィンランド方式は金がかかるので税金が上がる。それだけで国民の多数は反対でしょう。

「風紀の乱れ」を学校が注意しないなんて親たちが許さない。同窓会も許さない。同窓生でもないのに、近隣の人たちで、「買い食いをしている」だのと学校にクレームをつけるのもきっといるんじゃないですかね。そういうクレームを学校が突っぱねるとも思えない。

まして、それでメシを食っている人たちは私立を廃止するなんて無理でしょ。

教師が「暗記に意味がない」というところから始めることも無理。たいていは暗記で教師になったんだから。

しかし、フィンランドでは詰め込み教育に対する反発が強いそうです。実際暗記に意味なんてないですよ。

1ヶ月ほど前にカメラが壊れて修理に出そうと思ってビックカメラに行ったら、自分の携帯番号がわかりませんでした。その時も携帯を携帯しておらず、すごすごと帰ってきました。後日、携帯番号を記憶して、修理に出したのですが、いつまでも連絡がなく、おかしいなと思ったら、携帯番号を間違って教えてました。

このくらいは正確に暗記した方がいいですけど、今は年号も人名も漢字も検索すればいいんだから、暗記はパソコンやスマホに任せて、人間は考えるって作業を分担すべきです。記憶や計算はどうせ機械に勝てない。疑問を抱き、調べること、考えることの癖を学校でつけさせるのが大事なのです。

フィンランドでは、しっかりと考えさせる教育をしています。日本ほどテストはない上に、実施されるテストでは選択肢から選ぶのではなく、記述式が中心です。教師は採点が大変。今の制度をそのままにして、これを採用したら教師の負担がいよいよ増えるばかりです。

意外なのは、フィンランドは学歴社会なんだそうです。ここでの学歴は「どこの大学を出たのか」が問われるのではなくて、「何をやってきたか」の経歴と内実が問われます。フィンランドには教員試験というものもないそうです。

箔として学歴や資格を見たり、性別だけで判断して、中味を判断することができない人たちばかりの日本では無理でしょ。日本では箔が有効、ハッタリが有効であり、学歴と資格と性別で判断し、経歴詐称に騙されているのがお似合いです。

 

 

フィンランド人と日本人は大きく違いそう

 

vivanon_sentenceさらには教育以前の国民の考え方が違い過ぎます。フィンランド人は無口でおとなしいとされていて、その点では日本にも近いと言われることが多いらしいのですが、表層が似ているだけであって、本質は日本人とは全然違いそう。

堀内都喜子著『フィンランド豊かさのメソッド』ではその違いをこうまとめています。

 

 

密接な関係、より高いサービスを要求している日本に対し、フィンランドはビジネスはビジネスという、さらっとした関係を理想としている。農耕民族で常に周りの多くの人々との関係を重視してきたせいか、「皆」を大切にし、相手がこうしてくれるだろう、という甘えや、白黒ではなくグレーな部分をもつ日本とは違い、フィンランドは冷たいほどに白黒がはっきりしていて、各自のテリトリーが明確である。

 

 

黙っていても相手がこうしてくれるだろうと期待する。相手が求めていなくても、こうして欲しいのだろうと勝手に思い込んでおせっかいをする。そのくせ、はっきり言うと相手が傷つくし、自分が嫌われるので黙っている。言うとしても遠回しに言う。これがムラの正しい作法。

フィンランド人と私はこれを嫌うのです。はっきり言え。公文書を改竄しろと言われても、断れ。断れなかったら告発しろ。そんなこともできずに自殺してんじゃねえよ。

あとがきではこう説明されています。

 

 

日本の接客態度やサービスは素晴らしく、普段の生活でも日本の心配り、気配りの精神は美しい。自立が求められ、常に自分で行動をおこし、何かを手に入れていく必要のあるフィンランドと違い、日本では人間関係がいい意味でも悪い意味でも依存的だ。日本に留学経験のあるフィンランドの友人も言っていたが、日本の学校や部活での「心を一つに」「団結心」といったことは、個人主義の強いフィンランドにはあまり見られない。

 

 

私はこの本を読んで、フィンランドで生活するのは諦めました。住みたいと思ったことは一度もないですが、サウナはいたるところにあるのに、湯船のない家が多いんですってよ。家庭でもシャワーとサウナのみ。銭湯があればいいけど、どこに行ってもあるのはサウナ。ただでさえ寒いのに、そんなところに住めるかよ。

しかも、盛んな音楽はメタルです。

デスメタルは時々聴くし、Apocalypticaはメタルとは言えまだしも聴いてられますけど。

 

 

 

 

 

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