松沢呉一のビバノン・ライフ

性風俗産業には天国もあれば地獄もある-[ビバノン循環湯 378] (松沢呉一)-3,574文字-

歌舞伎町火災(2001)の翌年くらいの話だと思います。浄化作戦が始まる前で、まだ風営法の申請を出していない店が都内ではギリギリやっていけた頃の話。たぶん風俗誌の連載に書いたもの。

 

 

 

出店の相談

 

vivanon_sentenceある地方都市にある風俗店の店長から電話があった。新規で店を出そうとしていて、その相談に乗って欲しいという。

その翌日、相談に乗りがてら、彼と、その知り合いの風俗関係者2名と私の計4名でメシを食うことになった。

都内で新規開店は最低5千万円は必要だと言われている。これは内装費や宣伝費、募集のみの金額。権利を買い取るにはさらに少なくとも数千万かかる。

性風俗店が借りられる物件は限られる。どこも値段が高い。やれ保証金だの内装費だので、店の外側だけで数千万円といった単位で金がかかりかねない。

店舗用の物件でなく、家賃の安いワンルーム・マンションをそのままプレイルームとして使うマンション・ヘルス方式にすると、看板を出せないため、ふらりと入ってくる客を期待できず、メディアに頼らざるを得なくなる。当然、広告費がかさむ。

どっちの方法でやるにせよ、新規で女のコを確保するためには大々的に募集広告を出さなければならない。流行るかどうかもわからないのに働いてもらうためには、最低保証も出さなければならない。とくに今は、客が安定するまで時間がかかるため、しばらくは保証金を出し続けて引き留める資金が必要だ。

かつては脱サラして、その退職金でマンションを借り、新聞の三行広告に出すだけで客がわんさか集まり、あっという間に先行投資分を回収できた時代もあったが、今は資本がなければ生き残れないのである。

大手の系列店ならともかくも、個人で五千万円を用意することは難しい。性風俗店の開店資金では、銀行も貸してくれない。バブル期であれば不動産関係、建設関係、金融関係利で有り余った金を回してくれるスポンサーがいたものだが、それらの業種も余裕はなく、今の時代、ボロく儲かる可能性も薄いため、スポンサーは見つかりにくい。リスクは高いわ、リターンは見込めないわでは、誰も金を出さないだろう。

かといってヤクザ系から借りると、うまくいったら店を乗っとられかねず、失敗したら一生厳しい取り立てに追われる。

※本文に関係ないのですが、銭湯巡りをしている時に、北千住にヘルスがあるのを発見。風俗ライター時代もここは来たことがありませんでした。荒川区の町屋にあるのも見かけていて、ここも存在さえ知りませんでした。以前だったら様子を見るためにとりあえず入ってみるところですが、今は関心がなくなってしまいました。

 

 

なお届出ができる地域

 

vivanon_sentenceそこで、このところ、よく知られた歓楽街ではない場所を狙う業者が多い。マーケットがあって、ライバルがいないところで商売をやれば、家賃は安く、うまくするとライバルが少ない分、女のコも客も集まりやすく、今もデカく化ける可能性があるのだ。

また、全国のほとんどの地域では、条例によってヘルスの許可はとれないが、一部、今も許可がとれる場所がある。ビクビクしながら店をやるより、どうせなら許可をとって、堂々と商売をしたいところ。

全国各地を回っているため、私はこういう情報をけっこうおさえている。女のコの質やサービス内容だけじゃなく、仕事の範囲を超えて、条例がどうなっているか、警察がどうかまでつい興味をもってしまうんである。

そこでこの日は私が知っている候補地の情報を教えたのだが、彼は東京に店を出したいみたい。しかし、本当に都内の歓楽街はきついみたい。新宿近辺は、歌舞伎町の火事以来、警察が厳しくなっていて、この季節は売り上げも落ち、撤退を噂されている店の名前も聞く。

割引競争も激しくなり、客数だけじゃなく、客単価も減っている。正規料金9千円のうち4千円が女のコの取り分で、5千円が店の取り分とする。女のコの取り分を減らすわけにはいかないので、2千円の割引分を店が負担すると、残りは3千円。割引をせずにやっていけた時代は5千円残ったのに、4割減である。

※Googleストリートビューより松山市の道後温泉。今はどうか知らないですが、当時は新規でヘルス店を出せました(以下同)。

 

 

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