松沢呉一のビバノン・ライフ

タバコを吸う女はおもらししない—マニアのこだわり-[ビバノン循環湯 382] (松沢呉一)-3,429文字-

10年ほど前にメルマガに書いたもの

 

 

 

コンビニ仕様の撮影スタジオ

 

vivanon_sentence久しぶりに三和出版「おもらし倶楽部」のエキストラをやった。

場所はコンビニを模したスタジオだ。パッと見はいかにもコンビニだが、よくよく見ると、品揃えが変である。雑誌はすべて古い号ばかり。同じ漫画雑誌の複数の号が並んでいたり、コンビニでは扱えない18禁雑誌があったり。

商品も半分くらいは箱や袋だけであり、中が入っていても、すべて賞味期限が切れている。 ドリンク類は変色しており、カップ麺はフタが持ち上がっている。中に腐敗を防ぐためのガスを注入していて、それが膨張したのだろう。

しかし、レジはちゃんと使えてバーコードも読み込め、レシートも出る。このシーンを撮ることがあるためだ。

教室だの、病院だの、寝室だの、オフィスだのを模したスタジオはよくあるが、コンビニ用スタジオは日本でここだけらしい。

テレビの場合は営業しているコンビニを借りることが多いらしいが、エロだと借してもらえない。貸してくれたとしても、値段が高い。24時間営業だと、その分の売り上げを保証しなければならないためだ。

その点、ドラマであれば「××で使われた」ということで宣伝にもなるため、場合によっては金を払わずとも、クレジットを入れるだけでタダで使わせてくれることもありそうだ。

とは言え、人が集まってしまったり、乱闘シーンは撮れないので、テレビでも、このスタジオを使うことがある。大きな道に面してはいても、さほど人通りはなく、ブラインドがあるので、外から見えなくすることも可能である。人が集まることは避けられ、ハメても大丈夫。

※写真はその時に撮ったもの

 

 

テレビドラマとエロとが同じスタジオ

 

vivanon_sentenceエロ本でも、知り合いがやっているコンビニに頼んで、客の少ない深夜などに簡単な撮影をさせてもらうことはあるが、セブンイレブンからクレームがついて、「他のコンビニを使うな」と言われたこともあると編集者が言っていた。セブンイレブンで販売する雑誌に他のコンビニが写っているのが気に食わないらしい。 「だったら、セブンイレブンが使わせてくれればいいのに」と編集者。ごもっとも。

エロ本じゃ貸さない。しかし、他のコンビニが使われるのも気に食わない。セブンイレブンが雑誌の内容にまで口出しするのは有名な話だが、ここまで介入するとは知らなかった。しかし、そこまでチェックするのは熱心とも言える。編集者冥利に尽きよう。

エロ雑誌でコンビニを使わなければならない設定はそれほどないが、このスタジオは他のフロアにオフィスなどのスタジオがあるため、面白いので、ついでに借りるケースは多そうだ。

ここでちょっと面白い話を編集者から聞きいた。

「設備がしっかりしていて、値段も高めの広いスタジオだったら、今までも僕らが使うスタジオをテレビで使っていることはよくあったんですよ」

私もエロ雑誌の仕事で行ったことのあるスタジオをコマーシャルで使っているのをテレビで観たことがある。

「でも、最近は、明らかにランクの落ちるスタジオをドラマで使っていることがあるんですよ。中にはエロ本でさえも滅多に使わないようなひどいスタジオを使っていることもあります。よっぽど製作費がないんじゃないですか」

ないのである。エロ雑誌の撮りおろしが減って売上が減っているスタジオは、そのおかげで辛うじてやっていけているってわけだ。テレビの皆さん、ありがとう。

 

 

巨匠・杉浦則夫のこだわり

 

vivanon_sentence今回の撮影は、「おもらし倶楽部」なので、当然、コンビニでおもらしである。OLが昼休みにコンビニに来て尿意をもよおして、その場で漏らしてしまうという設定だ。さらには階上にあるオフィスのスタジオでも漏らす。

カメラはエロの巨匠、杉浦則夫。SM写真界の黒沢明と言われるくらいで、そのエピソードは尽きない。以前そのエピソードの素晴らしさはどこかに書いたが、最近新たに聞いたエピソード。

「前に海岸での撮影があったんですよ。そしたら、先生が沖を指して、“あの辺に筏が欲しい”と言い出して、しょうがないので、筏を作りましたよ」

写真を見ても、かすかに写っているだけだ。

今回も小道具に対する巨匠のこだわりが発揮されていて感動した。

 

 

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