女子高生500人を支配する男—汲み取り時代のスカマニア-[ビバノン循環湯 451] (松沢呉一)-3,422文字-
十年以上前に「スナイパー」の連載に書いたもの。図版は著作権切れの尻でまとめてみました。
スカトロの範囲
私が長らく連載をしている雑誌に「お尻倶楽部」(三和出版)がある。アナルセックスやお尻自体が好きな人も読んでいるが、メインの読者はスカマニアである。
スカは「スカトロ」のこと。精神医学用語とマニア用語とはズレていて、マニア間でのスカはコプロフィリア(糞尿愛好)の中でウンコが好きな人たちを指す。オシッコ好きやゲロ好きの読者もいて、糞尿や排泄物愛好という枠組みの中にはあれども、それらとウンコ好きとは別ジャンルで、必ずしも重ならない。カレーライスが好きな人とカレーうどんが好きな人は必ずしも一致しないのと同じ。
スカトロは、ウンコをするところを見るだけの人たちや、SMプレイの延長で浣腸してウンコをしたり、させたりの人たちを含めることもあるが、この世界でスカと言えば、ウンコを塗りたくったり、食べたりする人たちのことを指す。
「女王様のウンコだったら食べられる」という黄金プレイとは根幹が違う。「汚いのに食べられる」というところに意義を見いだすのではなく、それ自体を愛でる人たちがスカと呼ばれる。
スカマニアに対して、「僕もウンコをするところを見るのは好きです」と言うと、「そんなのは仲間じゃない」と猛然と否定されるので、失礼のないようにしたいもの。
ファンタジーとしてのウンコはいいけれど、生身のウンコは苦手という人たちも多くて、「ファンタジーかリアルか」の間には大きな差があり、ファンタジーとしてのウンコだけを楽しみたい読者も多い。生はニオイが強烈だし、食べると病気になるリスクもある。「焼いたレバーはいいけど、レバ刺しは苦手」という人がいるのと同じ。
ファンタジーが膨れ上がって、自分はウンコをガツガツ食べられると錯覚した人がウンコの実物を前にしてニオイで辟易とするなんてこともある。よーく自分の欲望を見極めた方がいい。
※定期刊行ではなくなって、ムックとして出されることがある「お尻倶楽部」。
美しい娘の血
昔は汲み取りだから、ウンコは簡単に見ることができ、換気のための小窓が下に開いていたため、ノゾキも容易であった。それに対して今のトイレは密閉されていて、ウンコもすぐに流されてしまう。
こうなったがためにウンコが愛おしくなったという見方も可能だが、もしかすると、昔の方がウンコ好きが多いのではないかと思えるフシがある。ウンコが日常化していたがためにそこに欲情する契機がそこかしこにあった。
事故でお亡くなりになった国民的歌手がそうだったとの噂が今も語られていたりするが、この人だって汲み取り世代である。また、雑誌を見ていても、昔から、この話題は多いのだ(「多い」というほどは多くないかもしれないが)。
今までにも何度か取り上げているが、昭和二八年から昭和三十年まで出ていた「風俗科学」(第三文庫)という雑誌がある。「奇譚クラブ」がSM雑誌化するのと同時期で、変態系雑誌の走りみたいな存在だが、この雑誌は変態の幅が広くて、よく便所ネタを取り上げているのが特徴。
昭和二九年四月号には戸倉政吉「汚物悦楽症の手記」という投稿が出ている。この時代の投稿は自身の妄想を書いているものがよくあって、これも事実かどうかわからないのだが、マニアの心理をよくとらえていようかと思う。
「私」は秋田に住む二一歳の貧しい農家の息子。前年、水害があったため、「借子(かりこ)」と呼ばれる年期奉公に出ることにる。女であれば芸妓や娼妓として、男は借子として働きに出る。苛酷な労働を強いられたのは女だけではない。
わずかな前借で、一日十八、九時間も働く生活である。住んでいるのは牛小屋の横にある物置小屋の二階。屋根裏であろう。電気もなくロウソクを灯す暮らしだ。
仕事、そして寝るだけの生活。当然、女には縁もなく、もちろん童貞である。
野良仕事が中心だが、月に二度ほど、糞尿の汲み取りに行く。肥料用である。町に出ることができるので、「私」にとってはこれでも楽しみであった。
ある家庭を訪れたところ、いつもは見かけない十八、九の美しい娘さんが出てきて、今日は風邪で仕事を休んでいると恥じらう。
便漕にヒシャクを入れてすくい出したら、そこには血のついた汚物があった(ナプキンなんてシャレたものではなく、海綿か脱脂綿だろう)。彼女はこの日生理だったのだ。
なお、この地方では生理のことを「赤玉」と呼ぶそうだ。この用語は秋田に限らず、今も若い世代で使用するのがいる。
Vintage nudes – Opus 5
(残り 1612文字/全文: 3543文字)
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