確実に稼ぐなら海外へ—女王様の価格(6)(最終回)-(松沢呉一)-3,268文字-
「女王様イメージが生み出す安定供給—女王様の価格(5)」の続きです。
店の数は十数倍に、値段は数分の一に
ブームの前に、都内にあったSMクラブはおそらく5軒かそこらだったと思います。変態と見なされていた時代、そんな仕事をする以上は高い金をもらわなければやってられない。
今現在、SMを取り入れた性感店などのソフトな店も入れると、MコースのあるSMクラブは都内に50軒くらいありましょう。「本格的SMクラブ」と言われるのがその半分くらいか。SMバーも、20軒から30軒くらいありましょう。その分、値段は実質数分の一、あるいは十分の一くらいになったというところ。
もともと秘めたる愉しみだったはずのSMが認知されるとともに料金も大衆化し、働く層が拡大したわけで、個人営業が出てきにくい日本においては、こういう結果になるのは必然だったのではなかろうか。
以上の流れを見た時に、大衆化していない国ではなお価格が維持されているだけではないかとも思えます。
ここに出したSSはシンガポールのBDSMのガイドベージですが、個人営業の女王様たちばかりです。値段を見ると、1時間のプレイは200米ドルから1000米ドルまで幅が広く、記事にあった「シンガポールでは800ドル」という数字は高額クラスです。個人営業だとこういう数字が出てくるのです。
ここはあの記事の決定的なミスです。あるいはあざとい操作です。「日本は安い」という記事の趣旨を強調したかったために、わかっていてやったのでしょうが、シンガポールの平均で言えば400ドルから500ドルの間でしょう。それでも日本に比べれば十分高いわけですけど、ブーム前の日本の状態だと思えば、高いのは当然。
ここに出ている女王様たちは米国、フランスなど国外からの出稼ぎも多い。日本でもフランス人の女王様など紅毛碧眼の女王様はとくに年配の人に人気がありますが、個人営業ではないため、そこで差がつけられないということなのだろうと思います。
まとめ
ここまでをまとめると、
日本では個人営業が少ないため、個人の人気に伴った価格の差別化がなされにくく、価格が統一されやすい特徴が前提にある。とくにSMはブームになって以降、大衆化によってヘルスや性感店とも競合するようになって過当競争が始まり、それとともにネガティブな見方が薄れ、半ば自己実現として女王様が安いギャラで働くため、供給過多が続いている。女が女であることを強いられる社会の居心地の悪さが背景にあるとは言えるが、それだけで女王様の価格が安いことの説明をするのは無理。
ということになりましょう。他にも見逃している要素があるかもしれないですが、ざっとこんなところかと思います。
よくセックスワークの権利運動に対する無知な人が「違法だから料金が高いのだ、スティグマがあるから高いのだ。合法になると収入が減るぞ」と知ったようなことを言いたがります。たしかに需要が多ければ高くなる、供給が多ければ安くなる、蔑視されるから人材が不足して高くなり、蔑視がなくなると人材供給がなされて安くなるという原理は働くわけですが、そんな簡単な話でもなくて、さまざまな要因が加わることがおわかりになろうかと思います。
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