女王様イメージが生み出す安定供給—女王様の価格(5)-(松沢呉一)-3,218文字-
「店舗型から無店舗型へ—女王様の価格(4)」の続きです。
刺すのはNG、切るのもNG
これ以降の動きとしては、ハードプレイがしにくくなったことが挙げられます。以前は注射針を乳首にいっぱい刺したり、メスで乳首を切ったり、チンコを割ったりしていたものです。止血剤や鎮痛剤も用意されていましたし、針と糸で縫ったりもしてましたから、ほとんど手術です。
客に医療関係が多いため、それまでは医療器具や薬品を横流しするのがいたのですが、病院にせよ、メーカーにせよ、管理が厳しくなり、あとは海外から輸入をするしかない。
同時に、とくにそれによる摘発があったわけではないと思うのですが、厳密には体を切ったり、刺したりする行為は医療行為になるというので、各店自粛の方向に。雑誌でもこれらは出せなくなっていきます。
彫師が違法だと言われるようになっているのに、女王様がM男の体に落書きみたいな刺青をしているのを放置するのはたしかにバランスが変ではあります。
今でもSMバーによっては吊りをやっていますが、SMクラブの多くが使用する一般のラブホではこれもできない。吊りはショー向きのワザですから、ふだんのプレイで不可欠ってわけではないのですが、一般のラブホだと壁に磔にすることも難しく、プレイ内容もかつてのような「らしいプレイ」が出来にくくなったと言えます。
やはり設備の点で料金の差別化を図ることは難しい時代です。
もちろん、キャリアの長い人がクラブにはいますから、幅の広い客に対応でき、深みもあったりするわけですが、ひとつひとつのプレイを見た時には、もはやクラブに行かないとできないことはあまりないかも。
※タイのZeth女王様 。タイでエナメルのコスチュームにブーツは暑いべ。さすがにノースリーブです。
安く働く人材の供給
もうひとつ、SM業界の大きな特徴があります。
女王様たちはなかなか辞めないのです。「稼げるかも」と思って入店したらちいとも稼げないし、覚えなければならないことも多くて、短期で辞めるのもいますし、結婚して辞めるのも当然いますけど、この世界では十年選手がザラです。結婚しても辞めないのもザラ。妊娠中だけ休んでいたのもザラ。
若いギャルよりそこそこキャリアのある女王様の方が人気が高いSMの特性が長期で働くことを可能にしています。キャリアがあるとなにより安心ですし、威厳もあります。
すでに書いたように。人につく客が多いので、関係が長続きしやすい。よって、一度客を集めると、十年後でもやっていける。ソープランドでもそうですけど、その傾向がSMの方がさらに強い。
その上独立心が旺盛なので、自身で金を貯めたり、スポンサーを見つけたりして店をやる。これで店が増殖していく。
この時に店を支えているのは、働く人材の供給が豊富になされるってことです。
とくにSMバーが顕著ですけど、時給が安いんですよ。キャバやガールズバーだと時給2,000円から3,000円くらいもらえたりするわけですけど、SMバーだとよくて2,000円でしょう。下は1,000円から。具体名とともに、実際に時給1,000円の店があると女王様から聞きました。居酒屋でももうちょっともらえるかも。それでも働くのがいるんです。
なぜでしょう。
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