松沢呉一のビバノン・ライフ

変態自慢—「人間探究」「あまとりあ」の悩み相談(下)-[ビバノン循環湯 393] (松沢呉一) -2,461文字-

マゾの苦悩—「人間探究」「あまとりあ」の悩み相談(中)」の続きです。

 

 

 

自分はサディストである

 

vivanon_sentenceあまとりあ」にも毎号「性の悩み相談」が出ていて、初期は高橋鐵が回答していることが多かったのですが、相談の内容が医学の分野に属するものも多く、医者ではない高橋鐵の手に負えないと判断されたのか、あるいは高橋鐵のどうにもならない回答に編集部もサジを投げたのか、途中から医者たちが回答者になります。

昭和二八年九月号の悩み相談のコーナーは「性生活研究室」というタイトルになっていて、太田典礼、椿八郎、西島実の三名が回答。三人とも「あまとりあ」の常連です。

その二番目は「自分はサディストである」という原田信繁(仮名)という人物からの長文の手紙です。

この人の手紙はまず抗議から始まります。

 

 

あまとりあ誌には未だサヂズムに関するこの種の投稿が皆無であった様に記憶していますが、サヂズム、マゾヒズムは共に現在我国では同性愛程表面上眼立った社会現象でないだけに、その傾向をもつ我々の悩みは深刻であるのに、研究者の対象として採り上げられていないという事に対する抗議なのであります。

 

 

文中の「この種の」とあるのは、同性愛の投稿です。同性愛の投稿は載せるのに、サヂズムに関する投稿を載せないのはどういうわけかと怒っているわけです。このあと、同性愛よりもサヂズムの方が犯罪に走るかもしれない分、危険が多く、また、相手を得にくい分、そういった情報を載せるべきだと言います。「オレの方が危険だぞ」とアピールをしているわけです。今も昔もマニアは競争心が強いのです。

たしかに同類の「人間探究」では、伊藤晴雨の記事を頻繁に掲載していますが、「あまとりあ」ではSM関連の記事が少ないかも。載ってないわけではないのですが、その内容にも不満があるようです。

 

 

研究的態度は皆無といっても過言ではなく、単なる実話風の読物として、最近の風俗雑誌K誌やF誌等に豊富に載っている一緒の自涜的作用しかない記事と大差ありません。

 

 

K誌は「奇譚クラブ」、F誌は「風俗科学」のことでしょう。そういった雑誌はエロ記事でしかなく、「あまとりあ」はもっと科学的に分析しろということらしい。

 

 

戦地でサディズムの喜びに浸る

 

vivanon_sentenceここから自分のザヂズムの吐露になります。この人は小学校の時に見た無惨絵の画集で興奮します。どうやら芳年の画集のようですが、戦前こんな画集が出ていたとは知りませんでした。ここから残虐なものに興味を抱きますが、妄想に留まって、長らく実践するには至りません。

やがて、戦争が始まって原田さんも召集されて戦地に赴きます 。

 

 

初めて生血の興奮、虐待の喜びを体験し、サヂズムの醍醐味を味わった訳ですが、詳述は御許し下さい。

 

 

戦争でサヂズムを満足させたというのは恐いですねえ。何をしたのでしょう。

 

 

此処数年来は、特に女性との交渉の際は、乳房を猛烈にひねるとか、頭髪を掴んで引っ張り廻すとかの代償行為なしでは勃起せず、従って満足出来ない状態になりました。

 

 

しかも、原田さんは、血が好きなので、これでもまだ抑えていて、その危険を自覚して、四十歳近い現在まで独身です。

さて、この悩みに回答者の椿八郎はどう答えたのでありましょうか。

 

 

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