松沢呉一のビバノン・ライフ

気づきにくい男女の文体差—世代で変化する言葉[中]- (松沢呉一)-3,094文字-

若い世代に通じない言葉—世代で変化する言葉[上]」の続きです。

 

 

 

小池百合子は嘘つき

 

vivanon_sentence小池百合子のカイロ大学卒業についての疑惑は大学側が卒業を認めている以上、覆すのは難しそうにも思えますが、主席卒業が虚偽だったことは本人も認めているに等しい。

先生から「非常に良い成績だったよ」と言われたことを主席卒業だとするのは嘘つき。あるいは、そう言われたら「主席なんだ」と思い込める人間は頭がおかしい。

どちらにしても問題あり。言い訳にしてもデタラメすぎます。

この範囲であれば公選法違反ではないですから、知事辞任に相当するとまでは思わないですけど、以前から言っているように、ハッタリかます人、経歴を詐称する人が多すぎです。そうすることで得をする社会が間違っていて、嘘をついたら損をする社会にした方がいいと思います。小学生みたいなことを書いてしまってますが。

一方で、許される経歴詐称もありましょう。実名主義のFacebookでは少ないですけど、Twitterではウソのプロフィールを書いている人はいくらでも見られ、最初からそれがウソであることがわかるようになっているものは存在自体がフィクションです。あるいは、ウソだとわからなくても、たわいもないことを呟いているのであれば罪はない。

私もかつては麻薬師丸ヒロポン(ドラッグ評論家)、メソポタミヤ二郎(古代史研究家)、村田ビデ雄(ビデオ評論家)、おりもの政夫(おりもの評論家)、坂本リューマチ(病気評論家)などなどの名前を駆使していたことがあり、それぞれデタラメな経歴を作ってました。さすがにこれを本気にする人はいなかったでしょう。松沢呉一と村田ビデ雄の対談をやったのはやりすぎだったかもしれないですけど。

これらの名前は元ネタが何かわからなくなってきているので、大半はもう使えないですわね。四半世紀も経つと人は忘れられていきます。言葉も忘れられ、新しい言葉に入れ替わっていきます。

東京都のサイトより

 

 

つねに若い世代は老いた世代の言葉を知らない

 

vivanon_sentence前回書いたように、若い世代に「それどういう意味? そんな言葉知らない」と言われた時に、「常識がなさすぎる。最近の若いもんは」と嘆いてはいけません。自分の世代の常識が下の世代に通じないのは当たり前。逆に年寄は若い世代の言葉を知らないのですから、ただの世代の差にすぎません。

ただの世代差がただの世代差だと認識できなくなるのが老化です。「私の感情、知識、能力}などが広く社会に通用していた頃の感覚をそのまま持ち続けて社会とズレてきていることを受け入れられなくなる。「老化とは社会が見えなくなること-老害シリーズ・ロック編 5」あたりを参照のこと。

今の60代であれば戦中世代、70代であれば戦前世代の知っていることを自分が知らないかったことを思い出せばいいはずなんですけどね。私だって江東区ののらくろーど(田河水泡にちなんでのらくろをキャラにした商店街)に行っても、いまいちピンと来ないわけですよ。のちに本になっていたり、アニメになっていたりするので、存在は当然知ってますが、リアルタイムに読んでいたのは戦中派です。

「のらくろ」は通して読んだことはないですけど、私はそういう時代の本を好んで読んでいるので、古い言葉遣いを比較的知っている方ではありましょう。しかし、活字になって残っているものと、日常生活で使っていた言葉とはまた違っていて、後者についてはいくら本を読んでもわからない。

話が通じないことがあったら、その言葉は若い世代には通じないことを理解して、別の言葉で説明するしかない。あるいは、それを自覚しつつ、頑固ジジイ、頑固ババアを貫くのもありです。若ぶる必要はないので、私は「ばかたれ」「あほんだら」と言い続けます。意味は通じますから。

ただ、「ひしゃげる」はまったく通じないことがあり得るので、今後は「歪んだ」と言い換えることがあるかもしれない。

それでも、ここまで書いてきた例はなおわかりやすいのです。若い世代に、「どういう意味?」と聞かれて死語であることに気づける。しかし、気づきにくい表現もあるんです。世代差だけじゃなく、性差が出る表現も同様です。

 

 

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