松沢呉一のビバノン・ライフ

集合愚を加速させるSNS—群衆心理に打ち勝つ方法[8](松沢呉一)-2,530文字-

ステレオタイプを書き換える文化の力—群衆心理に打ち勝つ方法[7]」の続きです。

 

 

 

再編成ができにくい環境

 

vivanon_sentenceここまで書いたようなステレオタイプの修正をリップマンは「再編成」と呼んでいます。

私自身の認識方法を見極めると、「世の中にあるステレオタイプに当てはめる。あるいは自分の見たこと、聞いたこと、体験したことを拡大誇張して、その全体をまずはイメージする。そこから外れる事象にぶつかって、ステレオタイプの再編成を経て実相に近づき、それらのステレオタイプを複数合わせることで、集団ではなく個に近づいていき、そのグループ全体はひとつにまとめられなくなる」という実感があります。

これがスムーズになされる限り、できることなら積極的にそうする限り、また、なんの裏付けもないまま決めつけたり、それを個に落とし込んで決めつけないない限りは、非難されるべきではなく、現実の裏付けがある場合は非難したところで改善は困難です。

これは国単位、文化圏単位、エリア単位でなされるだけではありません。このところ、Facebookで何度か触れている「しばき隊=暴力的」というイメージも同じです。これは逮捕者を多数出し、カウンター行動以外でも関わった人たちが暴力事件を起こした事実があるのですから、そういうイメージが出来上がるのは必然です。また、当初からそのイメージを自分たちで作り上げてきて、それが正しく受け取られただけです。

その現実を反映したイメージが出来上がっていることに対してどう対処していくべきなのか。「頑張ればオレたちだって話し合いくらいできるんだ」というところを見せていけばイメージはそれに伴って変わるでしょうが、相変わらず、議論する言葉を持たず、ただ罵倒するだけの人たちがいますから、なかなかそうはいかない。この人たちは、そこから生ずる不都合も引き受ければいいとして、それがイヤな人たちは別の方法をとるしかない。

これについてはそのうちまとめますが、この再編成はそう簡単ではない場合があります。

 

 

集合知から集合愚へ

 

vivanon_sentence

再編成がなされにくい環境があります。SNS、とくにTwitterがその典型です。

文字数が少ない中でスピードを維持しようとすると、ステレオタイプに強度に依存します。Twitterで、ある考え方のつながりによって出来上がったクラスターではその根幹になる部分の訂正ができにくい。クラスターが崩壊してしまいます。

インターネットより狼煙の時代」で縷々説明してきたように、生身の人間関係では多層な軸で人と人はつながっていますから、あるテーマについて対立をしたところで関係は続きます。巨人ファンと阪神ファンで友だちでいられます。

その関係が混入してくるFacebookと違い、匿名性の強いTwitterでは、あるテーマだけでつながったクラスターが形成されやすい。人によってはこれがアイデンティティになっていて、なおかつこの関係で人と会って「仲間」という集団が形成されているので、リアルな世界でもその人間関係ができてしまって、この根幹部分での修正ができにくくなります。

ギュスターヴ・ル・ボンが指摘しているように、多数派に従う、強いものに従うという群衆意識がここでは働きやすくなり、離脱する以外、この流れから逃れることがを難しくなります。

 

 

next_vivanon

(残り 1209文字/全文: 2616文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ