日本報道検証機構の解散と週刊金曜日の参考資料不掲載問題について(下)-(松沢呉一)
「日本報道検証機構の解散と週刊金曜日の参考資料不掲載問題について(上)」の続きです。
著作権侵害と参考資料の不掲載はまったく別
たとえば週刊誌がスクープ記事を出します。それまでどこも気づいていなかった独自性のある記事の後追いをするんだったら、「週刊文春の報道によると」と元ネタを明示するのは当然。以前に比べると、新聞でも雑誌でも、媒体名を明示することが多くなっている印象があります。いい傾向です。
しかし、その後追い記事が増えるに従って、どこのスクープであったのかについては省略されていきます。後追い記事の取材によって事実が確定していくことも多くて、話題になっているテーマでは、どのパートがどの媒体の取材だったかをすべて明示することは困難です。
どこまでも「週刊新潮のスクープから始まったこの件は」といったような冠をつけ続けることもありますが、それを省略したところで非難はされない。
ある程度の広がりが出た段階で、もはやそれは了解事項となって、言わなくてもわかるのですから、元記事が明示されなくなっていくのは当然かと思います。
その場合も、後追い記事では裏取りをやるのが原則で、それが不充分であることの問題は別途あれども、参考資料の掲示については、以上のような、ゆるいルールが実践されています。著作権侵害ではないですから、ゆるくていい。
そのために著作権侵害をやらかした人が参考資料として出さなかった問題のように見せることがあります。「参考資料名を出さなかったのはうっかりしてました」と。著作権侵害であれぱ参考資料を出しただけでは終わらないのですが、事を小さく見せるわけです。小賢しい。
日本報道検証機構と週刊金曜日の件
その一方で、参考資料を掲載しなかったことに対して、過剰と思われる抗議をする例が見られます。
具体例を出すと以下。
これには首をひねらざるを得ませんでした。
一般社団法人日本報道検証機構がネットに出した記事を参照して週刊金曜日が雑誌記事を作り、この記事に加筆したものを『検証 産経新聞報道』に収録しました。これに対して、日本報道検証機構が盗用と抗議、週刊金曜日は謝罪し、増刷分から参考資料を掲載しました。
上のリンク先の記事はそれに対してなお日本報道検証機構が批判を加えたものです。これを受けて、週刊金曜日は再度謝罪を出し、増刷をストップすることを決定。
この経緯についての「週刊金曜日」の報告はこちら。
両者がそれで合意したのですから、勝手にすればいいってことなのですが、これが標準的抗議と対応だと思われては困ります。
週刊金曜日側の最終見解を見ても、日本報道検証機構が取材したことを裏取りをせず、断定的に書いた部分があったことは、出版の倫理に反するとは言えましょう。これは権利の侵害よりも、記事の信頼性の問題かと思いますが、裏取りをしなかったことによって間違いを拡散したわけではないのですから、その旨、読者に知らしめれば十分です。
しかし、当事者である日本報道検証機構側は、週刊金曜日が増刷分から参照した旨を入れること、在庫分に関しても同様の紙を挟むとしたことに対してもなお抗議を続けました。
中立、公正であると期待される団体であることを考えた時に、この姿勢は大いに疑問があります。
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