松沢呉一のビバノン・ライフ

確実に視聴率が落ちる映像—メディアをめぐる不可解な現実[1]-(松沢呉一)

コンビニから雑誌が消え、社会から政治が消える—消えるのはコンビニの「エロ雑誌」だけではない[2]」からゆるくつながってます。

 

 

 

週刊誌はどうして今も出せているのか

 

vivanon_sentenceこの10日ほど、立て続けにメディア関係の人たちに昨今の状況を聞く機会があったのですが、どこもかしこも厳しい。

出版の景気がよかった1990年代から四半世紀経って、今残っている週刊誌も、ほとんどはその頃の部数の半分、あるいはそれ以下にまで落ち込んでいて、当時言われていた採算ラインを大きく割り込んでます。

たとえば実売30万部台だった週刊誌では、採算ラインが20万部で、今は実売10万部。当時の採算ラインは当時の制作費から割り出したものであり、今は制作費を落としているので、採算ラインも落ちているのですが、今現在、雑誌自体の売り上げと広告収入だけで利益を出している週刊誌は、「週刊文春」と「週刊新潮」くらいじゃないでしょうか。あとは赤字。

じゃあどうやって発行できているのかと言えば、インターネットの収益です。さすがに雑誌は長年の知名度と信頼の蓄積があるので、各雑誌のサイトはアクセスが稼げて広告が入り、有料登録をする人も多くて、とくに複数の雑誌が読み放題のスマホ用サービスの売り上げが伸びていて、これで赤字分を埋めてます。

CDの売り上げがピーク時の半分以下になっても、ダウンロード販売の売り上げが伸びているので、生き残っているレコード会社はなんとかやっていけているのと同じですが、音楽の場合は、なにかの拍子で大ヒットがあり得るのに対して、雑誌は「新潮45」や「週刊ポスト」のような荒技を使わないと、普段は50%に達する返本率を5%まで落とすことはできず、上限が決まっているので、「想定外のヒット」なんてこともない。稀に月刊誌で増刷がありますが。

しかし、ネットの売り上げはアクセスで左右されるので、ヒット記事を出すと売り上げに反映され、ネットでの受けを考える記事作りになってきています。

とは言え、週刊誌の制作費はこれ以上落とせないところまで落としているし、なお雑誌は部数が落ち、広告収入も落ちているので、ホントにギリギリなんとかやっているところです。すでに赤字分を補填できなくなっている週刊誌もあるでしょう。

外の人たちは簡単に「だったら廃刊にしろ」と言いますが、現在利益がまったく出ていないとしても、雑誌を廃刊にすると、人が余ります。今の時代、次の雑誌をすぐに出すこともできないので、人件費分がいきなり赤字になってしまう。週刊誌はスタッフの数が多い上に大手は給料がいいので、雑誌が赤字に転落しても、廃刊にするよりまだマシ。

そんな状況の中で、5千部でも上乗せできる特集があるなら食いついてしまう。増部数にならならなくても、維持できるならいい特集です。あくまでゼニの計算上では。

※上はドコモのdマガジン、下はTSUTAYAのTマガジン

 

 

たかが韓国でも取材費がもう出ない

 

vivanon_sentence週刊ポスト」の件は読んでないですから、ヘイトスピーチに該当するのかどうか、抗議が適切なのか否か、廃刊すべきものなのかどうかわからんですけど、週刊誌が危機的に売れないことが背景にあるのは歴然としています。売れている時代だったら、韓国に「本誌取材班」が出向いて、現地レポートをするところですが、そんな経費は出ないので、一家言ある人たちに原稿依頼をするだけで特集を作る。これで経費分が浮きます。

嫌韓よりも好韓で部数が伸びるんだったらそうしますよ。でも、それでは部数が落ちる一方です。仮想敵を叩く方が部数は伸びる。

もともと編集者や書き手は売れるものを出したいのは当たり前。それで食っているんですから。

しかし、「これはできない」という一線を持っている人が多かったはずです。かつては「そんな記事を出すくらいなら白紙で出す」なんて言えていたのはそんなことをしなくても売れていたからでもあります。

今の時代に編集者がそんなことを言ったら、「廃刊になっていいのか」「だったら別の売れる企画を出せ」と上層部に言われておしまい。貧すれば鈍する。

というのはまだしも好意的な解釈で、すでになんの抵抗もなく、それどころか、好んでああいう記事を作れる編集者も小学館だったらいるでしょ。なにしろ、ネトウヨの発生源「SAPIO」の版元ですから、その流れを 汲んでいる編集者が「週刊ポスト」にも流れていると考えた方がいいし、役員にだって「SAPIO」出身がいそうです。そこまで来てしまっているのだと思えます。

 

 

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