松沢呉一のビバノン・ライフ

猫将軍に描かれた強靭なマゾ—『マゾヒストたち』[無料記事編 6]-(松沢呉一)

男のマゾはスラット(あばずれ)の同類にして対極—『マゾヒストたち』[無料記事編 5]」の続きです。

 

 

 

トポール作品集『マゾヒストたち』

 

vivanon_sentence半月ほど前まですっかり忘れていて、あとがきにそのことを書くのも忘れていたのですが、『マゾヒストたち』のタイトルは、澁澤龍彦編/トポール作品集『マゾヒストたち』(1972)を踏まえたものです。踏まえただけで、とくにこの本へのオマージュってことではなくて、編集者と話して「このタイトルがベストだな」ということになったのですが、その時点でトポールの本のことは忘れてました。

マゾヒストたち』を出すことになった頃、トポールの絵を表紙に使えないかとちょっとだけ考えもしたのですが、古い時代の挿絵っぽくて、書店では間違いなく埋もれます。内容とも違いすぎて、中の挿絵として使うのも難しいので、そのアイデアは自らボツにしました。

原稿ができて、表紙の検討をしなければならない時期になり、新潮社のデザイナーがあるイラストレーターのありものの絵でダミーを作りました。ダミーとは言え、まんま表紙になるくらいに完成していたのですが、一点ひっかかるところがありました。

この時のイラストは官能小説風にM女を描いたものでした。その範囲では申し分ないイラストとデザインだったのですが、検索して、そのイラストレーターの作品を一通り見たら、すべて女なのです。男は描けない、とくに男のマゾは描けないのではなかろうか。

男のマゾと女のマゾは180度と言っていいくらいに違います。社会的な位置づけが違い、姿勢も違う。

M女タイプではないM女の登場—SMの大衆化に伴う質の変化 1」に書いたように、「M女っぽくない陽気なM女」もいますけど、ふだんからウェットな雰囲気を漂わせたのが今も主流であるのに対して、男のマゾはすぐにそうとはわかりにくい。表向きは男臭さや攻撃性をもっている人が少なくないですし、とくに長年マゾをやっている人は社会性があるため(じゃないと金が続かない)、ウジウジしているような人はまずいません。

そのことは『マゾヒストたち』を読んでいただけるとおわかりになりましょう。イメージと現実とのズレを埋めるような本ですから、イメージ通りのウェットで弱々しい絵、既存のマゾ・イメージの絵ではない方がいい。その点では紳士がマゾであるトポールも合致しているのですが、長閑すぎます。

※これはトポール作品集『マゾヒストたち』の箱の絵です。全編こういうタッチです。

 

 

猫将軍さんのイラストは求めていたM男そのもの

 

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女のマゾは徹底的に受け身で、徹底的に弱くてもいいのですが、男のマゾは徹底的に受け身でありつつ、そこに強靭さがあります。体が大きいとか、筋肉がついているとかの見かけではなく(それがあった上で受け身であることもまたきれいなのですけど)、後ろ向き、内向きの強さです。

編集者から他にも何人か描き手の提案があったのですが、どれもシックリと来ない。その時にひらめいたのが猫将軍さんでした。

このところのイラストレーターについては不勉強で、それまで存在を知らなかったのですが、パクリ職人・勝海麻衣の騒動でパクられた絵を見て興味を抱き、一通り絵を見てさらに興味が深まりました。

パクられた虎の絵だけではわからないのですが、対象の特徴をとらえてリアルに描くだけでなく、その特徴は内面の特徴になっていることがあって、外的な形としては時に歪んでいたり、変容していたりします。

そこに惹かれるものはあったのですが、猫将軍さんの絵は隙がないので、私の文章には合わず、からむ余地はなさそうだなあと思ってました。

しかし、表紙画の選択に行き詰まっている時に、猫将軍さんだったらM男の後ろ向きの強靭さが描けるかもしれないとひらめいて、編集者に提案したら、新潮社のデザイナーも以前から猫将軍さんに注目していて、起用したいと思いながらここまで実現していなかったことがわかってスムーズに決定し、猫将軍さんも引き受けてくれました。

できあがったイラストを見て、「欲しかったのはこれだ」と大いに満足しました。後ろ向きに強烈な自己主張をする存在、これが私のイメージするM男です。湿度は不要。縛られた蒼武蔵の肉体にも通じます。

これを女の体にして、髪の毛を伸ばしても、M女らしさにはならないってことがおわかりになりましょう。男のMと女のMはかくも違うのです。これを見ると、M男はカッコいいと感じる私の気持ちが理解できましょう。

今回のイベントは猫将軍さんにも来てもらいたかったのですが、関西在住とのことで、新幹線代は捻出できそうにないので諦めました。

※上は2019年04月09日付「弁護士ドットコム」より。下は「ILLUSTRATION MAKING & VISUAL BOOK 猫将軍

続きます

 

以下はテンプレです。

 

 

世界はマゾでできている—松沢呉一著『マゾヒストたち』(新潮文庫)発刊記念

マゾしか出ません!!

 

 

 

本年5月をもって休刊となった「スナイパーEVE」で連載していた「当世マゾヒスト列伝」が『マゾヒストたち』として新潮文庫に登場。

18人の選び抜かれたマゾ男の精鋭たちのインタビューとコラムで構成された希有なM男たちの肖像。
その発刊を記念して、マゾヒストたちの生の声を聞きます。

女王様がいてのM男ですが、女王様は出ません。
M男が主人公のイベントです。

 

【出演】
松沢呉一(生活マゾ)

【スペシャルゲストのマゾたち】
クニオ(露出・身体改造・性豪・包茎自慢の変態)
山田龍介(元キックボクサー・ヤプーズマーケット代表)
紅葉(盲目のピアニスト・マゾ)

予定していたゴン太さんは欠席となりました。その代わりに変態界の大物が急遽出演決定。『マゾヒストたち』には登場しない人物ですので、当日までお楽しみに。

※本イベントは16禁です。15歳以下の方はご遠慮ください。

 

 

【会場】

高円寺パンディット

☎︎090-2588-9905


 

【日時】

2019年11月17日(日)

開場/ 13:00
開演/ 13:30

2時間半程度を予定しています。

 

【参加料金】

<お得な本付き料金>

前売 ¥2,500  当日 ¥2,600

<本なし料金>

前売 ¥2,000 ¥当日 ¥2,500

※いずれもドリンク別です。

予約はパンディット(二種の予約は入口が別になってます)

またはFacebookのイベントページで「参加予定」をクリックするだけで予約扱いになります。当日、どちらかを選択のこと。

 

ゲストのプロフィール

 

クニオ 思春期から裏山でセックスを始め、十代でストリップ劇場の楽屋まで出入りするように。以来、全国のストリップ劇場を回り、同時にトルコ風呂にも行くようになった。自身がマゾという自覚はないが、性器に傷をつけて黴菌をつけて化膿させるのが好きで、SMショーにもMとして出演している。自身が身体改造マニアという自覚はないが、ピアスを体中に入れて銭湯に通っている。包茎が自慢で、包茎サークルのメンバーでもある。

山田龍介 ブロのキックボクサーだったが、マゾに目覚めて、名古屋の北川プロのビデオにデビューし、多数のビデオに出演。最多本数に出たマゾ男優かもしれない。結婚し、子どももいたが、家庭を捨てて、マゾとして生きることを決意して上京。浅野ナオミ女王様の奴隷として軟禁生活を送ったあと、監禁専門ビデオメーカー・ヤプーズマーケットの代表に。同社の出演者はヤプーと呼ばれ、経営者・制作者にしてヤプー0号として出演もしている。

紅葉(もみじ) 幼少期に事故で両眼を失明。盲学校に通いながら、ビンタをされたい願望が高まる。数学専攻で国立大学に進んだあと、ピアノの勉強のため、ポーランドに留学。帰国後、自身の欲望を抑えられず、単身、SMクラブに乗り込み、数学、ピアノに続いてマゾとしての実践を開始、V&Rの作品に出演してマゾ男優としてデビュー。本に掲載されたインタビューの段階では独身だったが、その後、結婚。当日はマゾの結婚生活についても聞けるはず。

 

 

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