松沢呉一のビバノン・ライフ

マクドナルドCEO解任に見る社内恋愛禁止の論理—懲戒の基準[36]-(松沢呉一)

明石市職員に対する不当とも思える分限処分と制裁欲に狂った人々—懲戒の基準[35]」の続きです。

 

 

マクドナルドCEO兼社長の解任

 

vivanon_sentence米国の企業ではセクハラへの処分が厳しくて、それに該当する発言があったり、体に触れたりしただけで一発で解雇されることがあるという話をよく聞きます。

これに関するものとして、比較的最近ではマクドナルドのCEOが社内恋愛で解任された例がありました(「解任」になっている記事と「解雇」になっている記事とがありますが、役員の場合は解任が適切でしょう)。

 

2019年12月07日「PRESIDENT Online」より

 

筆者は「人事ジャーナリスト」という肩書きになっているくらいで、痒い所に手が届く丁寧な記事になってます。

ここで注意すべきなのはセクハラではないってことです。

 

その理由は「従業員と関係を持った」ことが社内規程に違反したからだという。ただし「合意に基づく関係だった」とし、イースターブルック氏は妻とは離婚していたと報じられている。ということは相手の女性から告発されたセクハラではないことになる。

 

社内恋愛禁止規定に違反したのであり、ハラスメントではありません。

 

 

日本では社内恋愛禁止規定違反での懲戒は不当

 

vivanon_sentence同記事に出ている以下のコメントが今現在の日本での標準的な考え方であることは今まで述べてきた通り。

 

食品加工メーカーの法務部長はこう語る。

「いわゆる社内不倫でこれまで社員を処分したことはありません。たとえば妻子持ちの男性管理職が社外で不倫をしている場合はそれほど問題にしません。プライベートの時間内の非違行為なのか、職場の秩序を乱す行為なのかに分けて考えています。もし、ある部署の部長と秘書の女性がつきあっているようだという通報や噂話があった場合でも、しっかりした証拠がない限り、追求することはありません。ただし、2人の関係を職場の誰もが知っていて、嫌な思いをしているなど、職場の秩序を乱していると認識できた場合は調査に入ります。その結果、不倫の事実が判明し、部長の信頼が職場で失われ、業務に支障を来していれば役職の剥奪や降格の処分をすることになるでしょう」

 

若干過剰かと思うのは「しっかりした証拠がない限り、追求することはありません」のところ。証拠があったら追及するってことですけど、これは不要です。しかし、ここで「追求」という漢字を使っているのは意味があるかも。追及するのではなく、事実を確認するに留め、あとは懲戒ではなく、本人が知らないところで人事異動などによって社内で問題が生じないように対策をとる。人事課はこういうことをやりそうで、そのためには正確に社員の下半身関係までを知っておく必要があります。

しかし、社内恋愛は、業務に支障を生じさせていない限りは処分なしでいいし、それで処分するのは不当。業務に支障を生じさせた場合、それ自体が問題であり、相手側の申し立ては不要ですから、セクハラとは違います。

業務に支障がないのであれば私的領域で恋愛しようとセックスしようと結婚しようと本人たちの勝手であり、会社はここに介入できないというのが日本の考え方ですから、マクドナルドのようなことは日本では起きない。社内恋愛禁止を服務規程に盛り込んだところで、裁判になったら、現状では無効とされる可能性が高いだろうと思います。

日米の差は、「仕事」と「私的領域」との考え方の決定的な違いに基づいているのだと思えます。米国が私的領域の行為を尊重しないわけではなく、おそらく逆の考え方をしているはずです。

 

 

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