松沢呉一のビバノン・ライフ

オーストラリアと米国では買い過ぎる人たちが続出—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[13]-(松沢呉一)

中国人のトイレットペーパー備蓄量に唖然とする—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[12]」の続きです。

 

 

答えは家の広さ?

 

vivanon_sentence「どうしてこんなに備蓄しているのか」は「どうしてこんなに置ける場所があるのか」と言い換えられます。

中国の一世帯当たりの占有面積は116.4平米(北京大学中国社会科学調査センターによる)、日本は94.42平米(国土交通省による)です。中国の方が広いのです。

世帯人数は中国は3,2人平均で、日本は2.4人平均。1人当たりの占有面積は中国は36平米で、日本は39平米になって、ほとんど一緒ですが、日本の方が少し広い。

これは全国平均で、日本では地域差が大きく、東北や北陸は思い切り広く、東京は一世帯当たり64.48平米しかありません。平均の3分の2近くまで落ちて、広い地域と比較すると半分くらいしかない。23区内だとさらに狭いでしょう。単純に土地が高いってことと世帯人数が減るためですが、それでも1人当たりの専有面積は日本の都市部は狭い。

とくに家族がいる人たちに関しては専有面積が相当に狭くなって、日常的に備蓄するスペースがないため、そういう人たちが買い占めに走った可能性がありそう。

中国の地域別の数字がわからないですけど、中国の田舎では地主の大邸宅なんてことがないため、平均化していて、そこまで地域差がないかと思われます。

この比較は難しいですけど、備蓄は個人でやるのでなく、世帯でやることが多いですから、世帯全体の余裕があるのか否かになって、とくに都市部においては中国の方が余裕があるってことになりそうです。

トイレットペーパーを備蓄したい欲望をセーブするのはスペースです。前に書いたように、どれだけ備蓄するのかは「置けるスペースが決定しているだけ」です。仮に同じ程度に備蓄をする欲求があるとすれば、スペースに余裕がある方が自然に増える。日中の都市部で備蓄量調査をすれば有意な差が出るのではなかろうか。同じ程度に備蓄をする欲求があるのかどうかわからんけれど。

※2020年3月3日「MAIL ON LINE」より。オリジナルはどこの誰が出したものか特定できず、オーストラリア人以外が揶揄したものか、オーストラリア人が自嘲したものか、どちらか不明ですけど、大変いいセンスです。こういう時にもお笑いをやり続けたい。「トイレットペーパーを無駄にするな」と言ってくる人たちに対しては、「撮影のあと、皆でウンコしました」と添えておけばよい。

 

 

食品とトイレットペーパーの備蓄に関する違い

 

vivanon_sentenceその余地に食糧を備蓄することも可能ですが、私自身そうであるように、食糧となると、最大でも1年で使える量に留まりましょう。

食料品ではスペースとは別の理由がセーブする要因に加わります。缶詰やレトルトパックにも賞味期限があって、ものによっては時間が賞味期限を超えると劣化し、食べられるとしても味が悪くなります。米も同様。

冷凍食品は冷蔵庫の容量に規定されます。

その限度の最大値までつねに備蓄している家庭は少なくて、どこかしら不足がありますから補充が必要になります。

私自身、缶詰や乾麺、レトルト食品は備蓄をして、全部食ったらまた買い溜めをするというパターンになりやすい。0から10の間を移動していく。毎日備蓄したものを食うわけではないので、量が減ってきても焦らない。

対してトイレットペーパーは毎日備蓄してあるものを使い、こちらは8から10の間を移動する。トイレットペーパーは劣化がないため、スペースが許す限り備蓄が可能。ダブルかシングルか、色付きか無地か、香料つきか無臭かの違いくらいはあっても、「こんなのは使えない」なんてことはないですから、人に譲ることもできて、いくらあっても困らない。余命1年の人が3年分備蓄しても、誰かが引き取ればいいのですから、無駄にはならない。捨てたところで、平常時であればたいしてもったいなくもない。

ということから考えてまずは食料品を買い占めるのは当然ですが、それこそ食べ物は好き嫌いもあって、買う対象はばらけますし、ここでも制限が働いて、冷凍食品を5年分買う人はまずいない。

※2020年3月7日付「THE NEW DAILY」より。前に取り上げたオーストラリアで起きた、トイレットペーパーをめぐる乱闘事件についての記事です。殴った方の2名が起訴されていて、これ以外にもオーストラリアでは逮捕者が出ています。暴行事件の動画でも、このSSの写真を見ても、オーストラリア人は買い方が異常。どんだけウンコするんかと。多くの国では日本のように「お一人様一個限り」という制限をつける習慣がないためらしい。そしたら買えるだけ買うわけですよ。冷凍食品とはここが違う。なお、英国、米国などではミネラルウォーターの買い占めもあったと報じられています。日本では水道水でも飲めますから、ミネラルウォーターを買い占めた人はあまりいなかったのではなかろうか。こういうところにも差が出て面白い。

 

 

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