松沢呉一のビバノン・ライフ

アフリカにおける集団免疫作戦の可能性—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[19]-(松沢呉一)

南アフリカの現在—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[18]の続きです。

 

 

集団免疫に適しているアフリカ諸国

 

vivanon_sentence感染して抗体ができて、ウイルスが消えたところで、以降、再度の感染がないのかどうかについてはまだ不確定のところがあるようですが、1年以下といった期間において、通常の生活をしている限り、再度の感染は起きにくいようなので、以下、その方向で考えていきます。

前提となる環境は変わりようがないので、おそらく今後もアフリカでは致死率が低いまま推移するでしょう。そうであった場合、アフリカの多くの国では、他の感染症と比して大きな数字とは見なされないはずです。

同じ理由から先進国以上に症状が出ないため、そもそも完全に把握をすることは難しい。やろうとすると南アになります。あんな状態が望ましいですかね。

検査で陽性だとわかっても、病院、ベッド、機器、医師、看護師のどれも不足している中では、どうしたって感染者のケアができない。医療設備が整っている国で、重症化しても助かる率がいくらかでも上がるのは、酸素吸入器等の設備があるからであって、アフリカにおいて南アは比較的ましな方であっても、それがないならほとんど何もできない。にもかかわらず、COVID-19にリソースを向けると、他の病気で人が死にます。

中国はそのことを公表していないようですが、イタリアでは酸素吸入器の不足で他の病気で死んでいる人たちが続出していることが報告されています。中国やイタリアではバタバタと人が死んで行く状態になってしまったのでやむを得ないとしても、このまま行けばアフリカではその必然性がない。

※2020年3月31日付「Bloomberg」より。南アフリカのロックダウンは、感染拡大を防ぐと同時に、検査の徹底をするためです。町に警察や軍隊を配備して、家に軟禁状態になった人々を検査していく。イヤでも検査してもらえますから、検査を求める人たちの理想郷。しかし、今までの感染症対策の蓄積を無にするものです。これが許されるなら、HIVもすべて強制検査すればいいってことになります。今もアフリカではHIVで多数死んでいるんですから、家にまで押し掛けなくても、路上で強制検査して、感染者を隔離するのも許されましょう。「隠れている感染者を探し出し、正確な数字を出す」という発想が行きつく先がこれです。チフスのメアリーの時代以前に後退してしまいました。その果てにルワンダではロックダウンに従わない市民が射殺されてますからね(下記参照)。

 

 

集団免疫作戦が可能になる地域

 

vivanon_sentence南アフリカの致死率を例にとって集団免疫の可能性を探ってみましょう。人口の3分の1が感染し、0.18パーセントが死亡すると、死亡者は 3万4千人です。感染率は人口の半数以上になるかもしれないですが、致死率は発症していない人たちの捕捉がなされるとともにさらに落ちていくはずですから、最大値でこのくらいだと思います。

南アフリカでは、他の感染症による死亡者は比較的少ない可能性があるとは言え、それでも他の病気に紛れてしまいます。

だったら、COVID-19は、他の病気より軽微なものとして、あるいは対処法がないものとして、重症者以外、病院で受け入れないという方針を出せます。もちろん、余裕があれば受け入れればいいわけですけど、検査をしたところで治療などなにもできない以上、受け入れる意味がない。よって医療崩壊もない。南アフリカでは徹底検査を実施しつつありますが、アフリカではノーガードさえ成立するはずなのです。

 

 

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