松沢呉一のビバノン・ライフ

「日経ビジネス」が報ずるニューヨークの新型コロナ事情は怪しい—健康な若い世代はほとんど死なない病気[4]-(松沢呉一)

日本では30代以下の死亡者はゼロであることを再確認する—健康な若い世代はほとんど死なない病気[3]」の続きです。

 

 

 

ニューヨークでは次々と若者が死んでいるってよ(本気にするなよ)

 

vivanon_sentence海外では若い世代の死者数が増えているかのようなことを報じているものがあります。

たとえば以下の記事。

 

2020年4月2日付「日経ビジネス」より

 

タイトルを出すのが面倒なので、以降、この記事を日経ビジネスとします。

怖いですねえ。私も最初は疑うことなく読み始めたのですよ。ウイルスの変異が起きているのかもしれないと思いましてね。

しかし、読み始めてすぐに「おかしいだろ」と気づきました。こういうおかしさに気づくのは得意。新潮社の校閲並。

結論を先に言っておきますが、データを見る限り、ここに書かれているような事実は存在しません。この記事が正しいのであれば、ニュージャージー州もニューヨーク市もウソのデータを公開していることになります。

こういう記事から陰謀論が発生してしまうのよね。当局は数字をごまかしているのだと。

この記事が正しいのであればデータに出るはずですから、池松由香・日経ニューヨーク支局長には、この記事を出した責任として、これに合致するデータを提出するよう強く求めます。

 

 

ニュージャージーの話をニューヨークの話に見せかける

 

vivanon_sentenceここまでひどくないにせよ、米国でも同様の論調の報道がなされていることを見つけられます。すべてチェックしているわけではないですが、そう見える事実だけを取り上げて思いつきを暴走させているだけとしか思えません。

この記事では根拠らしきものは斎藤孝といいう日本人の医師が語っている言葉です。

斎藤孝医師はこういう人。

 

現在は、ニューヨーク市から川を挟んで隣のニュージャージー州の大学病院で感染症指導医を務めています。2カ月前までは、現在、新型コロナ感染症の患者さんが最も多く入院している病院の一つ、ニューヨーク・プレスビテリアン・クイーンズ病院に勤務していました。

 

と自分で語っています。

この取材は3月末に行なわれたものと思われ、斎藤孝医師は1月までニューヨークにいたわけです。

以下はニューヨーク市健康局のサイトから。

 

 

 

 

これはCOVID-19で入院した患者のグラフです。ニューヨーク市で初の入院患者が出たのは3月に入ってからですから、斎藤孝医師はニューヨーク・プレスビテリアン・クイーンズ病院ではCOVID-19の患者を1人も診ていないはずです。

COVID-19に接することなく過去にいた病院名より、今の方が大事だと思うのですが、このインタビューで語られているのはなぜか名前が伏せられているニュージャージー州の大学病院の話であることに留意してください。

ニュージャージーはニューヨークの隣ですから、状況は近いであろうことは推測できるのですが、記事の冒頭に「ニューヨーク近郊の大学病院で日々、COVID-19(新型コロナ感染症)の治療に当たる感染症専門医の斎藤孝医師」とあります。

検索すると、斎藤孝医師はジャージー・ショア大学メディカル・センター(Jersey Shore University Medical Center)に勤務。

 

 

 

 

下のHマークのところ。ニューヨーク州との境界まで車で20キロくらい。日本人でもよく観光旅行で行くニューヨーク市の中心部まではさらに20キロくらい。

たとえば「東京近郊」と言えば都下をイメージします。国立市だったり、八王子市だったり。練馬区や世田谷区でも、郊外っぽい場所はありますし、埼玉でも所沢を東京近郊をすることはありえますが、埼玉県熊谷市を東京近郊とは言わないかと思います。

この辺の感覚は個人差があるのでまあいいとして、よく読めばニュージャージーの話だとわかるわけですが、タイトルには「NYの感染医」とあり、ここで語られていることはニューヨークで起きているかのように誤読されることを明らかに狙っています。読者はこの人がニューヨークでは一度も感染者を診ていないだろうことには気づきにくい。

数字と照らすと、ニュージャージーでも斎藤医師が言うようなことは起きていそうにないですけどね。

 

 

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