松沢呉一のビバノン・ライフ

「原稿を書くならデータを確認」という教訓を教えてくれる記事—健康な若い世代はほとんど死なない病気[5]-(松沢呉一)

「日経ビジネス」が報ずるニューヨークの新型コロナ事情は怪しい—健康な若い世代はほとんど死なない病気[4]」の続きです。

前回と今回は数日前に書いたもので、連日数字が更新されていますが、差し替えて計算し直すのが面倒ですし、趣旨に変化はないので、そのままにします。

 

 

 

ジャージー・ショア大学メディカル・センターは若者が次々と死んでいく世界で唯一と思われる病院

 

vivanon_sentence

2020年4月2日付「日経ビジネス」掲載新型コロナ、若者が次々に重篤化 NY感染症医の無力感のおかしな点の続きです。

前回は東京ディズニーランドが東京と名乗ることの是非というような話にしか思えなかったかもしれないですが、ニューヨーク市とニュージャージー州はどちらも人口が800万人台なのに、感染者数が大きく違います(後述)。いかに隣接していても、両者を混同させることはまずいと思います。

今回はもっと重大。

斎藤孝医師の発言を抜き出します。ものすごいことを言ってますよ。

 

状況が変わったのは2~3週間くらい前でしょうか。先週は特にきつかったのですが、今週はもっときつくなると思います。何百人という数の患者さんが次々に入ってきている状態です。

 

というのも、今は感染症にかかって入院してくる患者さんが20~40代ばかりだからです。これまでは、65歳以上の高齢者や心臓や肺に疾患を持っている人が中心でしたが、今はそうではなくなっています。

 

何も治療歴のない健康そのものの屈強な男たちがいきなり、急性呼吸不全(ARDS)になって自発的な呼吸ができなくなり、重篤化、死に至るというようなケースを毎日のように目の当たりにしています。

 

若い人を助けてあげたいけど、全然ダメ。かなり急激に悪化して、戻ってこない。そんな場面が続くと、無力感にさいなまれます。

 

 

ある段階から何百人という患者がやってきているのは事実でしょうが、それが「20~40代ばかり」であり、基礎疾患のないらしき若い人たちが毎日のように死んでいるんだそうですよ。これが本当であれば、とっくにデータに反映されているはずです。

前回のグラフはニューヨーク市のものですが、このインタビューから3週間前、米国ではほとんどまだ入院患者は出てません。3月8日に12人の入院患者が出ており、ニューヨーク市全体で初めて入院患者が二桁に達した日です。入院患者の95パーセント以上はこの2週間の間に激増した患者なのです

数は大きく違うにせよ、ニュージャージー州でも同様に推移していて、3月半ば以降、「20~40代ばかり」の入院患者であるなら、ここまでの入院患者の9割以上がその世代のはずです。

 

 

ニュージャージー州全体で基礎疾患のない若者の死亡者はほんの数名のはず

 

vivanon_sentenceデータを年齢で分類する作業が間に合っていないのだと思うのですが、ニュージャージーでは欲しいデータを表にしたものが見つからなかったので、まずニューヨーク市のものを使います。

以下はNYCのサイトから、4月4日までの入院者数。

 

 

 

 

おかしいですね。44歳以下は18パーセントしかいません。

以下は死亡者

 

 

 

underlying conditionは基礎疾患です。

「0-17」の死亡者が1名いますが、これは3月30日に亡くなった17歳だと思われます。この記事の下の方に出ています。基礎疾患があったと。

それにしても、初めてこの世代が亡くなったのですから、「若い世代の死者が急増しているのか」と早合点してはいけません。中国でも2月半ばの段階で「10-19」は1人亡くなっていて、ニューヨーク市は2月半ばの段階までの中国とほとんど変わらないと言っていいでしょう。死亡者の数もほとんど同じです。3月30日に1人亡くなって、やっと2月半ばの中国並になったのです。インタビューがいつ行なわれたのかわからないですが、17歳以下の死亡者が出ていない段階だったかもしれない。つまり、ゼロだったのではなかろうか。

44歳以下は116名です。うち基礎疾患のあるのは79名。基礎疾患がないとわかっているのは8名。基礎疾患のない人は7パーセント以下しかいません。7割は基礎疾患があります。不明の人の中にも相当の割合でいるでしょう。また、中国の医療関係者で重症化した例では、過労や不眠が影響したと言われているように、疾患とは別の要因が作用している可能性もありそうです。

ニュージャージーでは感染者数がもっと少なく、よって死亡者も少ない。

 

 

next_vivanon

(残り 1547文字/全文: 3483文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ