松沢呉一のビバノン・ライフ

大恐慌時の自殺者数の増大と致死率の低下—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[24]-(松沢呉一)

若い世代をおとなしくさせるのではなく、働かせて社会を維持する我が構想とスウェーデン方式—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[23]」の続きです。

 

 

 

新型コロナの死者・経済的死者のどちらをも抑える

 

vivanon_sentence前回書いたようなことを私は構想していたわけですが、そうこうするうち、スウェーデン方式を知って、こういうのはできるだけシンプルにしないと理解できない人たちが出てきますし、実行も面倒になりますので、高齢層だけ切り離す方式がいいかとあっさり転向しました。

中年層もそれほどは死なない。死ぬのはもっぱら基礎疾患をもっている人たちですから、若くても死にやすい人たちは高齢層に合流してもらう。死にやすくなくてもそうしたい人はそうすればいい。

その分、若年層も今まで通りというわけではなく、できるだけ在宅勤務とし、それ以外での行動もできるだけ自粛を求めるってことだろうと思います。たしかにこうしないと、若い世代の感染が一気に広まって、自主隔離するのが一度に多数出てしまいますので、時間差感染を狙うにはこの方がいい。

たまたま私の考えがスウェーデン方式に似たというよりも、できるだけ死者が出ないようにするための方法を考えると必然的にこうなるのだと思います。この時の死者はCOVID-19によるものだけではなく、経済の停滞によるものを含みます。つまりは自殺者であり、少数ながら餓死者です。

※ストックホルムにあるカロリンスカ医科大学(Karolinska Institutet)が、パンデミック後に起きる自殺の増加について警鐘を鳴らした「The Coronavirus: Risk for increased Suicide and Self-Harm in the Society after the Pandemic」。これは英語です。

 

 

最終評価は1年後

 

vivanon_sentenceスウェーデン方式の評価が難しいのはたった今の数字では完結しないためです。他の国もそうなんですけどね。

たとえばA国ではロックダウンをすることで死亡者を100人に抑えられていて、対してB国ではロックダウンをしなかったために1,000人が亡くなっているとしたら、前者の方が10倍うまくやっているように見えますが、それは基準がCOVID-19しかなくなっているからであって、半年後、A国は経済的に破綻して大量の失業者が出て、自殺や餓死による死者が2,000人に達したのに対して、B国では今まで通りの経済活動が続いていて、誰も死んでいないとしたら、どっちが適切な対策だったのか。

実のところ、不況時の死者数は微妙な問題があって(下記参照)、死者数だけを取り出すと、「不況もそう悪くない」という話にもなってしまうのですが、仮に両者の数字が等しくても、私はB国の方に軍配を挙げます。継続可能だからです。

半年後にコロナウイルスの流行が再燃した時に、A国は予算を使い果たした上に税収も見込めず、休業補償もできないのでいよいよ国民は困窮します。しかし、B国は次回も同じことをすればいいだけです。感染した人たちは抗体ができて感染しにくくなっていればなおのこと都合がいい。

なおかつ、B国で亡くなるのは、働き盛りの人々ではなく、おもに基礎疾患のある高齢者ですから、社会維持のためには大きな影響はありません。だから死んでもいいというわけではなく、現実に継続性が違うってことです。

米国で失業手当の申請数が2,200万件に達しています。自殺者は失業者数に比例するとされていますから、このうちから確実に自殺者が出るでしょう。

さすがにこうなると、次の死に対するリアリティが増しているのではないかと期待するのですが、どうも世界はそうなっているようには思えません。鈍感すぎないか?

※2020年4月17日付「Bloomberg」より。毎週、数百万人が失業。こんなことになるなら、対応に出遅れた米国こそ、スウェーデン方式をやる意義があったのではなかろうか。医療崩壊も避けられたかもしれず、失業者の続出も避けられたかもしれない。まだスウェーデン方式がどうなるかわからんし、次回書くようにスウェーデン以外ではそのままの実行は難しいと思いますけど、参考にしつつ、スウェーデン型を改良した米国型はあり得たように思えます。

 

 

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