松沢呉一のビバノン・ライフ

人口密度が低いためでもありそうだけれども—北欧諸国がマスクに積極的ではない理由[上]–(松沢呉一)

 

丁寧に見ないと見えないこと

 

vivanon_sentenceアンチ・ロックダウン/アンチ・ワクチン/アンチ・マスク/プランデミック—ポストコロナのプロテスト[3]」に「粗雑にまとめると、細部が見えなくなって、事を見誤る」という話を書きましたが、コロナ以降、いろんな局面でこれを感じます。

粗雑にまとめると「性風俗は濃厚接触だから危険」になってしまう。しかし、数字を見るとそうとは言えない。一方でキャバクラやホストクラブではクラスターが多数発生している事実や、風俗嬢から客に感染した青森の例、風俗嬢から客に感染していない他地域の例を見ることで、「どういう状態だと感染しやすいか」が見えてきて、業種別の対策も考えられます(「Abema Primeの議論にならない議論を補足する—要友紀子の「性風俗ではクラスターが発生していない」発言」参照)。風俗嬢個人でできる対策、客ができる対策も見えてきます。

その見極めをしっかりそれをやっているのがSWASHさん。持続化給付金は風営法の規定による「性風俗関連特殊営業」が除外されていて、それが問題になっているのだから、風営法に基づいた議論をするしかなく、これに対して個人の思い込みによるイメージをぶつけたって意味ない。何が問題になっているのかも理解していないのでは議論にならんて。

また、粗雑にまとめると「スウェーデンは集団免疫を目的にして失敗し、多数の死者が出た国」になってしまいます。スウェーデンは集団免疫を目的にはしてなかったし、多数の死者が出たのはスウェーデン方式とは別の理由というのが現実。そういえばブラジルのマナウスで集団免疫が達成されたとの論文が出ましたね。論文は公開されているので、コメントするのは内容をチェックしてからにします。

「新型コロナは人工的に作られたウイルスではない」という論文を粗雑に受け取ると、武漢ウイルス研究所から漏れた可能性までが陰謀論にされてしまいます。「人工的に作られた」と「保存していたウイルスが漏れた」とは別で、前者はあり得ないとしても、後者はなお否定しきれない。だからオーストラリアは調査させろと要求しています。粗雑に考えると、この要求が難癖にしか見えなくなります。

「アンチ・ロックダウンはトランプ支持の右派だ」とまとめると、ヨーロッパのアンチ・ロックダウン・プロテストではアンティファのフラッグや赤旗がはためいていることが見えなくなりますし、スペインの住民運動も見えなくなります。その国の政治体制にも左右されるため、ここは丁寧に見る必要があります。

アンチ・ワクチンやプランデミック派はどこにでもいて、この人たちは右派とか左派といった区分けとはまた別の分類。「アンチ・ロックダウン/アンチ・ワクチン/アンチ・マスク/プランデミック—ポストコロナのプロテスト[3]」で書き忘れましたが、アンチ・ワクチン派には宗教関係の人たちもいます。過去に日本でもそれによって生じた問題が起きています。てっきりエホバの証人もそうだろうと思ったら、意外にも場合によっては避けた方がいいけれど、最終的には「個人が決定」という考えみたいです。やっぱり思い込みで語らず、ひとつひとつを丁寧に見ていく必要があります。

※税込みで500円。金町でもこの値段で出てましたが、この写真は先週の浅草です。30枚入りかもしれないと思って、店員に「これって50枚入り?」と聞きました。「50枚入りです」「安いですね」「おひとつどうですか」「いや、いらない」 私はマスクの値段に興味があるだけで、マスクにはそんなに興味ない。高めの布製オシャレマスクには最近ちょっと興味が出てきてますけどね。

 

 

改めて北欧のマスク事情を確認する

 

vivanon_sentenceマスクもそうです。「マスクには効果がある」と粗雑にまとめると、その限界も見えなくなり、マスクをすることによる危険性も見えなくなります。

スウェーデンやアイスランドではマスクの推奨さえしていないのはなぜか。フィンランドやノルウェーは推奨に留めて、義務化に至ってないのはなぜか。効果を認めていないのではなく、そのプラス面とマイナス面を検討した結果です。今後やることがなくて義務化をするケースも出てくるかもしれないけれど。

スウェーデンだけでなく、今現在の感染者数も死亡者もヨーロッパの中では少ない北欧諸国はマスクに積極的ではありません(ここでの北欧はスウェーデンノルウェーフィンランドデンマークアイスランドの5カ国とします。バルト三国まで広げると調べるのが面倒だからです)。

それらの国々ではマスク率は今も低くて、路上でカウントしてもわずか数パーセントにしかなりません。YouTubeで確認すると、見渡す限り誰もつけていないことも珍しくありません。

北欧の中で、もっとも現在感染者が増えてきているのはデンマークで、北欧で唯一マスクを義務化している国です。ただし、空港だけの義務化です。

 

 

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