松沢呉一のビバノン・ライフ

ブルガリアのナショナリストによるプロテスト—ポストコロナのプロテスト[11]-(松沢呉一)

タイの反政府・反国王プロテストとスリーフィンガーズ・サルート—ポストコロナのプロテスト[10]」の続きです。

 

 

 

ブルガリアのアンチ・ロックダウン・プロテスト

 

vivanon_sentenceバルカン周辺は相当にヤバい状況です。大きな戦争に発展しかねない。

そのこととは直接関係はないですが、ブルガリアでもアンチ・ロックダウン・プロテストが展開されていました。

 

 

 

約2ヶ月間のロックダウンを経て、4月下旬に緩和され、5月14日のこの行動が緩和後初の大きな集まりでした。

これは民族派の主催ですが、プランデミック派がちらほら混じってます。

白地に獅子のような紋章が描かれているのは民族派政党ヴァツラズダーネ(Възраждане/キリル文字の読みを相当忘れてしまっていて、これで合っているのかどうか自信はない)の旗です。ヴァツラズダーネはブルガリア語で復活の意味。イエス・キリストの復活とブルガリアの復活をかけたものでしょう。

マスクをしているのは3割程度でしょうか。ブルガリアではマスク着用義務が可決されたのですが、反発が強くて翌日撤回されて、推奨だけです。

ヴァツラズダーネはアンチマスク派ではなくて、皆がマスクをつけている写真も公開されています。

 

 

キリスト教民族主義

 

vivanon_sentence個人主義を否定する全体主義的志向だけでも私は支持できないですが、この政党のサイトにはちょっと感心しました。議長のコスタディン・コスタディノフ(КостадинТодоровКостадинов)は頭の切れる人物っぽい。彼が多くを書いているようで、頭の悪そうなネオナチとはちょっと違う。

 

 

見た目もネオナチとは全然違います。

私はブルガリアのポップスジャンル「チャルガ」には詳しいですが、これはブルガリアのメインストリームのポップスとは違い、地中海に広がるジプシー音楽の流れですから、ブルガリアという国についてはさほど調べてきてなくて、この政党のサイトでブルガリアが抱える問題を学べました。

東ヨーロッパ全体に言えることですが、ブルガリアは人口が減ってます。これは西ヨーロッパ諸国に比して貧しいため、国外に出る人が多いためだと私は認識していたのですが、出生率自体も大きく減っていて、1990年代には出生率が1.0まで落ち、現在も1.5程度までしか復活していない(と正確な数字までは書かれていなくて、これは別のところで調べました)。

これでは国が消滅する危機感を抱くのは当然かもしれず、「新自由主義とグローバリズムによって植民地化し、解体されたブルガリアを復興する」といった主張が展開されているのですけど、この政党は宗教民族派とも自称しています。ブルガリアは1割強イスラムもいますが、8割がブルガリア正教の信者です。これについてはっきり書いたものは見てないですが、正教の多くがそうであるように、LGBTには批判的でしょう。

その主張から当然排外主義的ではあるのですが、地理的な関係から、アラブ世界との関係を重視するとも言っており、はっきり敵視しているのはジプシーです。伝統的ブルガリア民族のコミュニティが消滅しつつあるのに対して、ジプシーは着々と自分らのテリトリーを広げていると。

比較の問題でしかないにせよ、ルーマニアなどに比してブルガリアはジプシーに対する差別意識が薄いと私は認識しているのですが、この党は集中的にジプシーに憎悪を向けることにしているように見えます。

ブルガリアにはロマの政党があり、ジプシーではなく、ロマと自称することが多い印象ですが、ヴァツラズダーネがジプシーという言葉を使っているのは敵意を込めているかもしれない。蔑称としてのジプシーです。

国土の荒廃を憂えて、農業の推進やエコ政策も打ち出しています。人口政策と相俟って、ここはエコファシズムが臭わないではないですが、今現在露骨ではありません。この政党が復興させるブルガリアはどうやらソ連支配化のブルガリアのようでもあり、EUから距離を置いて親ロシアであることを主張しています。

地方議会にはすでに議員を送り出しながらも(サイトの写真にある48の書かれたTシャツは選挙の際の党の番号のようです。おそらく数字の記入でも投票は有効なのでしょう)、国政選挙では得票率は1パーセント台にすぎず、まだまるで力のない政党ですが、アンチ・ロックダウンは格好の活躍の場になったようです。

 

 

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