松沢呉一のビバノン・ライフ

移民受け入れに伴う困難とその解消の可能性—ポストコロナのプロテスト[18]-(松沢呉一)

今現在ドイツのユダヤ人をもっとも迫害しているグループはネオナチではない—ポストコロナのプロテスト[17]」の続きです。

 

 

極右がムスリムの反ユダヤ主義を批判するねじれ

 

vivanon_sentenceあれだけ詳細な調査をしても、はっきりしたことがわからない点が残りますが、ムスリムの中に反ユダヤ主義が相当の割合で存在していることは間違いない。反レイシズム、反ファシズムだから、ヨーロッパにおいてはマイノリティであるイスラムに肩入れするって発想は間違っていることは明らかです。「反レイシズムだから、イスラムの反ユダヤにも反対する」「ネオナチにも反対だから、イスラムの反ユダヤにも反対する」という姿勢が望ましい。

しかし、二項対立の図式で片方を味方として見る癖がどこの国でも強いのだろうと思います。レイシズムに反対すればいいだけのことで、片方を味方と認識する必要はなく、味方と認識しても、批判はすべきです。

イエローベストにおける反ユダヤの広がりを見ても、反ユダヤはネオナチの専売特許と思うのは大きな間違い。反ユダヤ主義において、数で言えば極右とともに極左を批判し、その何倍もムスリムを批判するのが正しい。

昨今の極右は反イスラムの方が重要な課題になっていて、ムスリムの反ユダヤを明確に非難しているのが極右だったりする現実もあります。ムスリムの移民を受け入れると、反ユダヤが高まるぞと。ユダヤコミュニティは自分たちが利用されているだけですから、いよいよ不快感を高めてますが、移民に対する嫌悪や疑義がある人たちに、極右の主張は一定の支持を得てしまうかもしれない。

それもこれもムスリムの反ユダヤ主義を社会が直視してこなかったことに原因があって、ちゃっかり極右にムスリムの反ユダヤ主義批判を持って行かれています。

※マルメの「ユダヤ人会衆・情報センター(Informationscentet vid Judiskaförsamlingen)」のサイトから、マルメのシナゴーグ。今はユダヤ人が500人もいないわりには立派。相当古そうで、かつてはこの数倍、あるいは数十倍のユダヤ人がいたことを思わせます。ナチスの台頭とともに、逃げられる人はドイツから次々と逃げ出した時代を想起しないではいられない。

 

 

ユダヤの指導者とイスラムの指導者の対話

 

vivanon_sentenceでは、これをどう解消したらいいのか。

ここについては各地のユダヤとイスラムの指導者たちの対話が鍵になります。彼らは互いに反イスラム、反ユダヤの解消に向けて奮闘をしています。

ユダヤ人の指導者たちの間での合意がなされているのだと思うのですか、彼らは移民受け入れには反対をしていない。しかし、ムスリムたちの反ユダヤの現実に社会は向き合うべきだと言っています。

数が多いため、ユダヤ人にとってはネオナチ以上に危険であるムスリム内の反ユダヤが、反レイシズムの美名のもとで見逃されてきたことにも向き合うべきです。

 

 

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