麻薬組織と武装革命組織に対抗するためにできることは除草剤散布とコカインの合法化くらいか—ポストコロナのプロテスト[38]-(松沢呉一)
「酒を飲んでいて警察に殺された人とそれに抗議して殺された人たち—ポストコロナのプロテスト[37]」の続きです。
コロンビアの麻薬事情はもっと複雑
ここまでメキシコの麻薬組織について見てきましたが、コロンビアは似たところがありつつ、もっと複雑で、麻薬組織に左翼組織コロンビア革命軍(Fuerzas Armadas Revolucionarias de Colombia/FARC)が関わってきます。もともと別の組織ですが、両者は提携をして、FARCもコカの栽培、販売に着手して軍資金を得て、最盛時はコロンビアの3分の1を支配するまでになります。
彼らもメキシコの麻薬カルテル同様、誘拐や強盗でも金を稼ぎ、日本人も何度か誘拐されていますし、敵対する者は消します。
コロンビア政府は対決路線と和平路線を繰り返してきましたが、2016年に和平協定が締結され、FARCは武装解除し、合法政党である人民革命代替勢力(Fuerza Armada Revolucionaria del Común)を結成(こちらも略称はFARC)、和平協定で得た上院下院各5議席を足がかりに議会活動を開始。
いっぱい人を殺してきた人たちが和平協定で議員になるのは理解を越えていますが、選挙ではすべて惨敗。たぶん彼らは支配地域では支持を得ていると誤解していたのでしょうが、まるで支持されていなかったのです。
この和平協定に納得していないFARC分離派はいまなお武装して麻薬の製造、販売を手がけていて、麻薬を入手するためにロシア・マフィアがこれをバックアップして、武器を提供。
「裏ではつながっているんじゃないんか」とも疑ったのですが、現在、政党のFARCと分離武装FARCは敵対関係にあって、武装放棄したメンバーは武装FARCに多数殺されています。
これとは別に国家解放軍(Ejército de Liberación Nacional/ELN)というのもいて、もともと知識人たちから生まれた集団で、左翼思想+解放神学という特性を持ち、ELNは否定しているようですが、こちらも麻薬で資金を稼いでいると言われます。FARCとはかつては勢力争いをしていましたが、2010年にFARCとELNは協定成立。
※HRW(HUMAN RIGHTS WATCH)のサイトに出ている「The Urgent Need to Reform Colombia’s Security Policies」は、コロンビアの問題解決がいかに困難かを的確に描き出しつつ、早急な対策が必要だとしていますけど、コロナで全部すっ飛んでますから、状況はひたすら悪化しています。
麻薬組織と革命軍と先住民との関係
ベネズエラにも米国は麻薬組織の対策費を出しているのですが、警察も軍も腐敗していて、市民の協力も得られない。
2019年には複数の兵士が共謀して先住民族の12歳と15歳の少女を誘拐してレイプする事件が連続して起きていて、これでは信用されるはずがない。
ここがまたひっかかるところです。前回見た先住民族のデモも、差別反対がテーマであり、もっとも警察の差別的暴力に遭っているのは先住民です。
先住民の多い地域と麻薬組織やFARC分離派の支配地域はかぶっていて、もともと先住民が栽培していたものですから、コカ栽培をしている先住民もいるために、警察は先住民総体を敵視しているようです。
また、メキシコ同様、パンデミックで武装FARCや麻薬組織は勢力を拡大していて、支配地域拡大のために先住民の追い出しをやり、殺害もしているため、先住民は踏んだり蹴ったり。
ボゴタのデモではマスクをしている人が多かったですが、先住民たちは農業従事者が多いので、感染リスクの低い人たちです。あのデモのせいで感染する人たちもいるかもしれず、ロックダウンなんてなければよかったと思っているに違いない。踏んだり蹴ったり罹ったり。
※2020年4月24日付「Noticias ONU」 スペイン語版国連ニュースです。パンデミックにより、武装集団が支配地域を拡大していることが記述されていて、コロンビアのカウカ(Cauca)県では、今年だけで人権活動家が13名殺害されているとあります。武装解除した元FARCメンバーの多くは現在農業に従事しているのですが、和平協定以降36名が殺害されており、議会闘争が失敗したため、武装グループに戻る人たちもいます。そこまでは書かれていないですが、土地を所有していない人たちは雇われ人ですから、失業してゲリラに復帰する人もいそうです。ゲリラをしていた方が食っていけます。
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