松沢呉一のビバノン・ライフ

春の銭湯と春が来そうにない学生街—新・銭湯百景[14]-(松沢呉一)

ギニアに銭湯を作るのが夢—新・銭湯百景[13」の続きです。

 

 

春休みの銭湯

 

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先々週のこと。時々行く銭湯に高校生らしき4人組が来てました。ここは私の好きな高度成長期銭湯です。つまりは一般には人気がなくて、サウナも露天風呂もない。ふだん若い世代を見ることもあまりない。

ここじゃなくても、平日の夜9時台に高校生のグループを見かけるのは相当に珍しい。とくに下町では、風呂なしの一軒家が今も残っているエリアがけっこうあって、単身で来ていたり、小学生や中学生の弟と来ている高校生がいますし、先日も書いたように、練習や試合のあと集団で来ている体育会系の生徒はいますが、その場合は土日祝の夕方から夜にかけての早い時間です。

それ以外で見かけるとすれば夏休みや冬休みくらい。と思って気づいたのですが、春休みなのか。というより、たぶん卒業式が終わったのだと思います。

進学するのか就職するのかわからないですが、皆と遊べるのももう最後。例年だったら卒業旅行をするところですが、去年も今年も無理。

やむなく、それぞれの家を泊まり歩く。これも例年だったら「歌舞伎町に繰り出すか」「センター街でナンパするか」ってことになるところです。飲み慣れない酒を飲んでゲロを吐いたりして。

東京の高校生だと高校2年生くらいから堂々と店で飲んでいるのもいますけど、飲み屋も食い物屋も喫茶店もやってない時間です。「銭湯でも行くか」ってことになったのだろうと想像しました。

でも、真面目そうなヤツらで、話し声も小さくて、内容は全然聴き取れない。慣れない銭湯で萎縮しているのかもしれないですが、人の話に聞き耳を立てるのが趣味の私のことも配慮して欲しい。

ことによると、どっかから出てきて、それぞれ東京での一人暮らしが始まって、まずは皆で銭湯に行ってみようということになったのか。もっと大きい声で話してくれれば、方言を聴き取ることができるのに。

こっちから話しかけて、事情を聞きたかったのですが、よくよく考えると、銭湯で見知らぬ若い世代と話したことは少ない。じいちゃんやおっちゃんばっかり。あとはたまに子ども。

そもそも銭湯に若い世代は少ないってこともありますが、冷たくあしらわれそうな予感がして話しかけにくい。その世代が話しかけてきたこともほとんどない。

もうなくなった渋谷区の銭湯で足をすべらせて転倒した時に「大丈夫ですか」と声をかけられたくらい。それだけってことはないけれど、数えるほどです。ネパール人留学生が話しかけてきたのはレアケース。

※写真は本文と関係ありません

 

 

学生はかわいそすぎる

 

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4月に入って、大学の入学式がこれから続々始まります。

この時期は、学生が多い銭湯では顔触れが一部入れ替わります。 大学卒業とともに来なくなるのがいて、新入生の中には銭湯通いを始めるのがいます。また、アパートや寮に風呂やシャワーがあっても、仲良くなった同級生やサークルの先輩たちと銭湯に連れ立ってくることがあるので、4月、5月は賑やかになります。

そうなって欲しいのだけれど、そういえば去年はそういう光景をあまり見なかったように思います。リモート講義が増えて大学に来なくてよくなり、サークル活動も自粛に追い込まれ、新歓コンパもなく、孤立している学生が増えているかもしれない。

5月病なんてことを言いますが、昨年はとくに安全装置が働かなかったために鬱病などが悪化した例は多かったのではないかと想像します。

大学時代の私は5月病とは無縁でしたけど、それは東京の一人暮らしが楽しかったからです。その楽しみの大半が昨年は奪われました。

大学に行くのはクラスの友だちに会うため、コンパがあるため、サークル活動をするため、学祭の準備をするためだったりしたのが、それらがなくなって、ドロップアウトしたのも多いのではないか。

 

 

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