なぜ中国では被害規模のわりに死者数が少ないのか、なぜ洪水の取材をそうも嫌がるのか—脳内地図を修正する試み[2]-(松沢呉一)
「DW(ドイッチェ・ヴェレ)の記者が中国の市民グループに恫喝された—脳内地図を修正する試み[1]」の続きです。
国際ジャーナリスト連盟(IFJ)の声明
ドイツDWの記者に対する中国市民の威嚇については、このシリーズのテーマである脳内地図について論じていく枕のつもりだったのですが、もう少しその話を続けます。
7月28日付で、国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が声明を出し、中国政府に対して、ジャーナリストが安全に取材できるように要請をしています。
この中にガーディアンの記事からの引用として、BBC、ロサンゼルスタイムズ、ドイッチェ・ヴェレ、アルジャジーラ、CNN、フランス通信社、AP通信などが妨害や恫喝を受け、一部は殺人の脅迫まで受けているとあります。
また、これは別の記事からですが、中国国内のメディアも洪水の取材で警察からの妨害を受けたという報告があって、広範囲に取材妨害が行われているようです。中国共産党傘下の組織から「指名手配」になっているBBCのロビン・ブラント記者とは関係がなく(彼が最大のターゲットであることは間違いないとして)、中国政府は洪水の取材自体を嫌っていることが推測できます。
中国政府は今回の洪水では死者数を急速に増やしていて、行方不明者を入れてすでに3桁になっています。死者数は随時増えていくものですけど、国内からの批判も強く、照合活動も行われているため、ごまかしきれなくなったということでしょうか。
実際の死者は数千か?
実際には数千人が亡くなっているとの説もあります。ダムが決壊し、300以上の河川が氾濫し、3千万人以上が被災したのですから、そのくらい亡くなっていてもおかしくない。
現江戸川区は江戸時代からたびたび洪水に見舞われ、大正時代に100人以上が亡くなった年があります。3千万人以上が被災した中国とポツリポツリと農家があっただけの湿地帯の死者数が一緒ってことがありますかね。
三峡ダムが決壊寸前まで至った昨年の洪水の死者と行方不明者は200人台。今年のドイツとベルギーの洪水の死者は200人を超えたところですが、行方不明者がなお千人以上。水害は遺体が流されてしまい、土砂にも埋まるため、行方不明者が多くなるのは必然。
なぜ中国では災害規模と死者数、行方不明者数がアンバランスなのか。人口密度や洪水の状況、行政による避難命令や救済活動が適切だったか否かによって大きく変化するため、単純には言えないですが、具体的な被害箇所についての疑惑がいくつも出ています。
当初から「おかしい」と指摘されていたのは、河南省鄭州市のトンネルです。トンネルが水没し、水が引いたあと、200台の車が回収されて、遺体が多数発見されたと現場で見ていた人たちが証言しているのですが、当局はここで4人亡くなったとしか発表しておらず。
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