松沢呉一のビバノン・ライフ

連続少年殺害事件の容疑者が殺された—ケニアの治安とリンチ殺人-(松沢呉一)

 

 

吸血鬼か、同性愛者か、ケニアの連続少年殺害の容疑者が住民たちに殺された

 

vivanon_sentence4年間に少なくとも10名、おそらくは12名から14名の少年と少女(少女は1名のみ)を殺害した容疑で7月に逮捕されたマステン・ワンジャラ(20歳)は、今月13日、裁判所に向かう日に脱走してましたが、昨15日に家に戻ったのを地元の人たちが見つけてリンチにして殺したと警察が発表。

国内外のメディアの一部は、ワンジャラ容疑者を「吸血鬼(vampire)殺人者」と呼んでいます。これは彼が殺害前に少年たちの血を吸ったことがあると自白したことに由来するのですが、そこを大きな問題にはしていないメディアが多い印象です。

「吸血鬼」という形容は、土着宗教的な背景がありそうな印象を広げますが、読んだ範囲で、そういった報道は見られず。

それよりも被害者のほとんどが少年であることから、同性愛的な動機を強く感じさせます。たんに弱い者を狙うんだったら女子の方がいいのだし、殺されたのは十代後半に入っているのもいて、サッカーをやっていた壮健な男子たちが中心ですから、決して弱い相手ではありません。

同性愛はケニアでは法で禁じられているがために、ねじれた欲望の発露だったのではないか。血を飲んだというのも少年たちの命を体内に取り込むための儀式であり、愛情表現のひとつにも思えます。

7月に逮捕された時に、多数報道は出ているのですが、なにより事実が衝撃的で、被害者の少年たちを取り上げ、その親にもコメントをとっています。この段階ではワンジャラがサッカーのコーチとして少年たちに近づいたこと、薬で眠らせた上で、絞殺、撲殺したことなどを自白しており、報道はそこに留まった感があります。被害者の親たちも「動機がわからないので知りたい」と言っています(ここでもテレビ番組はアナウンサーのみ英語で、あとはだいたいスワヒリ語なので、テレビだと何を言っているのかわからない)。

13日は初公判だったようで、容疑者の逮捕から3ヶ月経ってやっと裁判が始まって、これから動機についても明らかになっていくところだったわけですが、そんな段階でみすみす犯人を逃がしてしまった当局に対する不信感もあってリンチ殺人になった模様です。

警察に対する不信感はこの時に始まったわけではなく、アフリカ一般に警察が信用されていません。だから、警察に通報するより、リンチで処理することがあります。リンチにされたのはホモフォビアが混じっているかもしれないのですが、真相はわからないままになりそうです。どのみち死刑だったにせよ、リンチだとこうなってしまうのが惜しい。

※2021年10月15日付「BBC NEWS」 この写真がマステン・ワンジャラ

 

 

アフリカもラテンアメリカも治安が悪い

 

vivanon_sentenceこんな事件はそうそうないとして、ケニアは治安がよくない。

またまたシンノスケ氏のチャンネルから。

 

 

 

日本人がケニアに行ったら気をつけることとして、「治安の悪さ」を強調していて、「安宿に泊まらない」「日中でも外を一人で歩かない」「夜は複数でも歩かない」「強盗に襲われたら抵抗しない」と注意事項を挙げています。

治安の悪さはケニアだけでなく、アフリカ全体に言えることですし、ラテンアメリカ一般にも言えます

 

 

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