松沢呉一のビバノン・ライフ

ニュージーランドのタバコ販売禁止は抜け穴だらけなのを政府もわかっているはず—喫煙者を今の半分にしたいらしい-(松沢呉一)

 

 

ニュージーランドのタバコ販売禁止計画

 

vivanon_sentence一週間ほど前に、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は2008年(この数字がなぜか複数あります)以降に生まれた世代へのタバコの販売を禁止する規制を実行していく計画を発表したとの報道が流れてましたが、私は副鼻腔炎に襲われていたので、それどころではありませんでした。

ずいぶん前から議論は始まっていて、その概要がまとまっただけで、なお計画段階であり、法案が通ったわけではないですが、ニュージーランドの報道を見ると、支持の方が多いようで、来年予定されている法案はたぶん成立するでしょう。

今現在、ニュージーランドでタバコを吸えるのは18歳以上で、計画通りに進むと、2027年以降は、喫煙可能年齢を1歳ずつ引き上げていくため、そこから80年くらいは吸い続ける人がいることを前提としています。その前に人類が滅亡する可能性もありますので、相当に気の長い計画です。

これはなかなかよく考えられていると思いました。強く反対するのは今現在吸っている人たちであって、その人たちが吸い続ける権利は守る。また、ニコチンが低いレベルに抑えられている新しいタイプのタバコはその世代でも吸えます。「だったらいいんじゃね?」と思える余地があるのです。

ニュージーランドは以前からタバコの規制に積極的だったのですが、税率を上げて、タバコを値上げする方法では喫煙者はほとんど減らなくなったため、次の手段に出ました。

当然、反対している人たちもいます。最大勢力は小売りです。タバコの販売は小さな食品店、雑貨店が担っていて、彼らが店をやっていけなくなると反対をしています。ニュージーランドでは乳製品をそれらの店舗で扱っているらしくて、乳製品メーカーが販路が断たれるとしてやはり反対をしています。

これに対して、この計画の賛成勢力は「それらの店では決して売上に占めるタバコの率は高くなく、タバコの購入者はタバコだけを買うことが多いため、他の売上減少にはつながらない」と反論。

※2021年12月10日付「時事ドットコムニュース」 これがオーソドックスな内容の報道です。

 

 

貧困層の喫煙率が高いのに値段を上げるのは残酷すぎる

 

vivanon_sentenceこの方針をバックアップするのはマオリの人たちはニュージーランドの平均より喫煙率が高いという事実です。酒もそうですが、貧困層の方が依存率が高い。

ニュージーランド全体の喫煙率は9.4パーセント。15歳以上では11.6パーセント、成人のマオリでは29パーセント。条件が揃ってないですが、ざっとマオリは倍。他の南太平洋出身のマイノリティも平均より高い。

貧困層が酒やタバコに依存する理由はさまざまあるでしょうが、はっきりしているのは「貧困だから」です。そこに依存する原因を解消せずに、酒やタバコを取り上げると、そこで果たしている役割が果たされなくなるのでは? たとえば気晴らしやストレスの発散です。今まではその層に過酷な課税を強いて金を巻き上げてきて、今度はそれ自体を取り上げるのかよ。ひどいな。

新世代が吸えないようにするのであれば、同時に旧世代に対しては税金を減らすか、その分の援助をすべきです。それによって、寿命が短くなることについては本人たちが決定すればいい。

 

 

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