松沢呉一のビバノン・ライフ

イラン検事総長が道徳警察を停止すると発言したのは信用できるのか?—プロテストを鎮めるためにイラン当局がやらなければならないこと-(松沢呉一)

 

ワールドカップが原因で殺されたイラン人

 

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クロアチア戦を観ていたんですけど、私はプレッシャーに弱くて、観ているだけで胃が痛くなりそうでした。サッカー選手じゃなくてよかったですよ。高い率でPKをはずします。

日本ではそんなに報道されていないかもしれないですが、イランではサッカーがらみで殺された人がいます。

11月30日に行われたグループBの米国対イランの試合は、1対0で米国の勝利だったわけですが、イランではその結果を祝う行動が展開されました。

 

 

イラン代表も元代表も政権に対する抵抗をしているのに、これは行き過ぎじゃなかろうか。

より詳しい記事を読むと、最初から「イラン代表チームが勝利すると、政権が喜ぶので、イラン代表を応援しない」という人たちもいたようですが、イランを応援していたのに、イランが負けたことで別方向の祭りで騒いだ人たちも多いようです。負けたことの腹立たしさを晴らす方法。これだったら理解できます。

こういった騒動の中、27歳のメフラン・サマクはギラン州で婚約者と車に乗っている時にイラン敗退の祝賀騒ぎに対してクラクションを鳴らしただけで治安部隊に射殺されました。イラン代表に選ばれたこともあるサイード・エザトラヒは「メフラン・サマクは子どもの頃、同じサッカーチームに所属していた」と写真とともにSNSに書いて追悼。

 

 

葬儀には多数の人たちが集まって、これでまた独裁政権への怒りが高まったでしょう。

 

 

イランが風紀警察を停止するとの情報が流れているが

 

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昨日の報道。

 

 

さらに詳細な記事を読むと、検事総長は非公開の会議でこの内容を語ったということですから、政府機関が公式に発表するのを待った方が良さそうです。

イランはロシアと同様で、狡猾なことをやります。今週はまた激しい抗議行動が予定されているため、こうやって情報をどこかしらからリークしておいて国民を安心させ、そのスキを突いて反政府活動家を一網打尽にして処刑するくらいはお茶の子さいさい。道徳警察を廃止にしたことにして、別の名前で継続すればいいし、検事総長は「そんなことはワシは言っとらん」とすっとぼけるのもあり。

その場限りの嘘だとしても、現在の状況をなんとかしなけれけばならないとのイラン政府の焦りみたいなものは感じ取れます。国内の混乱もさることながら、ロシアを支援している点でも国際的な制裁が強まってますから、ロシアもろともに経済的に追い詰められていくのは必至ですが、イラン政府の高官はロシア政府の高官同様、平気で嘘をつける人材揃いであると考えておいた方がいいのです。

イラン政府が公式に発表したところで信用はできず、こんな騒動になった道徳警察の責任者を処分し、死刑判決を受けた人たちを含めて、拘束されている人たちを直ちに釈放したら、少しは信用していいかと思います。

マッサ・アミニが亡くなった契機を作り出したのは道徳警察ですが、以降、450名の人々を殺して来たのは警察、軍隊、イスラム革命防衛隊(IRGC)などであって、それらが今まで通りである限りは国民は殺され続けます。そこに対するなんらかの措置を講じることを政府は公表すべきです。

✳︎2022年12月4日付「The New York Times」 イラン・メディア以外で最初に報じたのはおそらく「ニューヨークタイムズ」

 

 

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