松沢呉一のビバノン・ライフ

イランのプロテストを報ずる際に、18歳未満の死亡者の9割を占める男子より、女子が取り上げられる事情と、それが許される範囲を確認しておく-(松沢呉一)

※この回は昨日出す予定だったのですが、ログインができず、ふて寝しました。なぜか、イラン国営放送のハッキングについて、昨日、日本の報道各社が報じていて、ネタとして古くなってしまいましたが、この回の本論はそのあとのことです。

 

イラン公共放送がハッキングされた

 

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以下はオーストラリアのテレビ局ABCの動画。ここまでの動きをコンパクトにまとめつつ、最新の情報も入れてます。

 

 

中に出てくるイラン国営放送のハッキングは8日のことです。ほんの10秒くらいですが、ハメネイ師に銃の照準を当てて、「立ち上がれ」と呼びかけています。一連のプロテストで、女学生たちまでがコールする「独裁者に死を」というフレーズを映像化したもの。

これもアノニマスっぽいですが、今回アノニマスが宣戦布告したことが、イランではわりと大きな話題となっています。どうせそんなに大きな成果は上げられないだろうと思ってしまいますが、今回はすぐさま宗教関連のサイトに入り込むなどの成果を出していて、イランはガードが甘いかも。

その次の映像はこれで初めて見ましたが、道路脇の広告用の看板に蜂起を呼びかける言葉が出されています。紙に皺ができているので、深夜慌てて張り出したのでしょう。こういうところにもハメネイ師の肖像が出ていたりするので、それを剥がしたのか。

この中で死者数は185人になっています。これはいつものイラン・ヒューマンライツの数字です。他の報道では、この週末、イランの100以上の都市でプロテストが行われたと言ってます。前は80都市だったので、これも増え続けています。たとえばイランの人口30万人以上の都市ではことごとくデモが行われたってところではなかろうか(イランの人口は8,400万人)。

 

 

痛ましさを決定するバイアス

 

vivanon_sentenceハッキングした画像に出ている4人の写真は、左からニカ・シャカラミハディス・ナジャフィマッサ・アミニサリーナ・イスマイルザデだと思われます。「ビバノン」でも取り上げてきた犠牲者たち。

上から順にイランで、また、イラン国外で取り上げられている犠牲者を4人ピックアップするとこうなるわけですが、私自身、この4人を取り上げることに対して、いくらかのためらいがありました。これって「女子供バイアス」とちゃうんかと。

この一連のプロテストのきっかけはヒジャブの強制着用に抵抗するマッサ・アミニの死ですから、彼女がクローズアップされるのは当然。しかし、それ以降は、男の方が多数殺されていて、10代もいます。男女合わせて「子ども」は19人。ここでの「子ども」は日本で言う「児童」、つまり18歳未満のことです。死亡者のうちの1割強。うち女子はニカ・シャカラミとサリーナ・イスマイルザデの2人だけだと思われます。

イランでは反政府プロテストはよく行われていて、最近では2020年11月がもっとも激しく、プロテスターの1,500人が死亡したと言われていて(警察は隠蔽するため、正確な数字は不明)、うち400人が女性で、2割以上。17人。あるいは23人が10代。女子はおそらく1人。逮捕者で見ると、女性率はこの時の方が多く、若年層は今回の方がずっと多く、10代の死亡者における女子率は今回の方が高い。

今回は、18歳未満の死亡者における男女比は、9対1くらいで男子が多く。男子の写真や名前を出しているプロテスターたちもよく見かけますし(下記参照)、女子に比べると地味ながら報道もされています。

16歳の男子と16歳の女子を並べた時に、女子の方がかわいそうに思えてしまう心の動きは私の中にもあります。とくにサリーナ・イスマイルザデが路上で死ぬまで殴られたのは涙を禁じ得ない。間違いなくここにはバイアスが働いています。それを自覚できるくらいにはバイアスが薄いかもしれないですが、ないわけではない。

また、女の犠牲者はこの4人のように10代から20代前半だけでなく、40代でも60代でも殺されています。これも少しは報じられていますが、若い世代に比べると、数分の一、あるいは数十分の一しか注目されていないでしょう。

中高年の犠牲者より、10代の犠牲者の方が痛ましい。それぞれの人に残されていたはずの年月の長さで痛ましさが決定するのはやむを得ない。命の重みには年齢で決定します(他にも要因はさまざまあれども)。ロシアの無差別攻撃で、ウクライナの民間人が犠牲になったと報じられる際にも、子どもが混じっているといっそう痛ましい。男児よりも女児の方が痛ましい。

 

 

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