松沢呉一のビバノン・ライフ

ソマリー・マムを利用し、噓を拡散した人々—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち[海外編4]-(松沢呉一)

 

善意の分野に潜む悪人二種

 

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改めて何か用事がある時以外、SNSを使わなくなったこともあって、「ビバノン」に反応があることはほとんどないのですが、ソマリー・マムについては、ひさびさに連絡してきた知人がいました。近況を話し合うためのきっかけみたいなものですが、せっかくなんで、書きそびれたこと、書ききれなかったことを追記的に書いておきます。

 

人身売買・性暴力・性搾取をネタに金を集めた「詐欺師」ソマリー・マム—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち[海外編1]

ソマリー・マムの経歴は完全な噓、人身売買の被害も捏造—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち[海外編2]

誇張・虚偽・不正会計でソマリー・マムは不動産を買い漁った—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち[海外編3]

 

善意の分野に紛れ込む「悪人」には二種いそうです。ひとつは、最初から「このジャンルは騙されやすい人がいるから、金になるぞ」と目をつけて参入してくるタイプ。もうひとつは、やっているうちに金が目的になるタイプ。

ソマリー・マムは最初から自分の経歴を捏造していたようですから、前者のタイプだろうと思いますが、別団体の人が言っていたように、悲惨な例を出せば出すほど金が集まるため、現実にはほとんどいないような例をありふれた例であるかのように脚色し、やがては捏造に着手するような個人や団体がいることは想像に難くない。なにしろ自分らのやっていることは正しいのです。「正しい目的のための金集めに噓を交えることはあっていい」と自分なりの糞論理を駆使します。噓をつくことに罪悪感のない人は簡単にここにハマります。

また、元夫のピエール・ルグロスは、「この世界で働いていると、捏造された物語が資金を得るために誰もが利用していることを知っているはずだ」と語っています。これは、彼自身が捏造や虚偽に加担してきたため、自己正当化のための言葉であり、当時から自分にそう言い聞かせていたのではないかと推測するのですが、「誰もが」は言い過ぎとしても、捏造、虚偽、誇張が横行しているのは事実かもしれない。

ソマリー・マムは8.000人の少女を救ったと言っていますが、カンボジアの人身売買は激減していて、こんな数を救済したはずはない。捏造された犠牲者の一人、ミース・ラサは、人身売買や売春とは無関係で、ただ子どもが多くて親が育てられないためにシェルターに預けられただけです。こういう子どもらもすべてカウントしているのでしょう(どうせ虚言者ですから、なんの根拠もない数字と思った方がいいか)。

こういった噓を積み重ねることで金が集まることを知ると、今後は「いいことをしているんだから、不正会計をやって金を少しくらいちょろまかしてもいい」と思える人も出てきます。

ソマリー・マムは1997年に最初の財団AFESIPを設立していて、2014年に虚偽と捏造が暴かれるまで17年にわたって活動を続けてきて、多額の寄付金を集め、メディアで大活躍し、数々の賞を受賞できたのですから、もっと巧妙にやっている人たちもいそうです。

※2014年10月9日付「The World」 これも元夫のピエール・ルグロスのインタビュー。「NewsWeek」の記事は自分も協力したと言っていて、記事には出ていなかったソマリー・マムの暗部が語られています。ソマリー・マムは自分は父親が誰か知らず、祖父に育てられたと言っていたわけですが、ピエール・ルグロスは父親の名前を書類で確認していて、彼に会ったと言っています。ただし、父親は叔父だと名乗ったとのこと。親族ぐるみで辻褄を合わせていたのでしょう。事実関係がよくわからないのですが、彼らが離婚したのは、すでに夫婦生活が破綻していたことに加えて、ソマリー・マムがカンボジアで国連機関の金を狙って乗っ取りを図ったためだと言ってます。悪人。彼がソマリー・マムの現実を告発し始めたため、ソマリー・マムとその取り巻きから殺人予告されたそうで、ソマリー・マムは極悪人です。

写真は女優のスーザン・サランドン(Susan Sarandon)と。セレブが寄ってくるのは大好きだったようです。

 

 

噓を増幅、拡散した人々

 

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寄付した人たちだけでなく、ヨイショしたジャーナリスト、メディア、活動家、研究者たちもすべて加担者です。ピエール・ルグロスは、ソマリー・マムの物語は、メディアによって誇張された面があると語っています。著書もライターがまとめたもので、ライターによる虚偽も混じっているようで、仏版と英版でも内容は変えられているとも。メディアや読者が虚偽や捏造を求めました。

 

 

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