松沢呉一のビバノン・ライフ

人身売買・性暴力・性搾取をネタに金を集めた「詐欺師」ソマリー・マム—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち[海外編1]-(松沢呉一)

キャンドル・ジュンと岸本学弁護士—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち」の続きですが、今回は海外の話ですし、3回も続くので、「海外編」として別立てにしました。

 

 

ソマリー・マムは慈善活動家か偽善活動家か

 

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私はつい数日前に知人に教えられるまで知らなかったのですが、カンボジア人のソマリー・マム(Somaly Mam)という人物がいます。

以下は2009年にUCLAが公開した動画。

 

 

UCLAは以下の解説をつけています。

 

Cambodian activist and author Somaly Mam has rescued more than 6,000 girls in Southeast Asia from sexual slavery and helped many to rebuild their lives. She spoke on Sept. 30 at UCLA’s law school on how to go beyond mere talk in the fight against predators and organized criminals, and sat down for an interview with the International Institute. The discussion was presented by the International Human Rights Program of the UCLA School of Law and cosponsored with the UCLA Asia Institute, LexisNexis, the Public Interest Law and Policy Program, the International Human Rights Student Association, and the UCLA Journal for International Law and Foreign Affairs.

 

以下は自動翻訳に手を加えたものです。

 

カンボジアの活動家にして作家のソマリー・マムは、東南アジアで6,000人以上の少女を性奴隷から救い出し、多くの少女たちの生活再建を支援してきました。 彼女は9月30日にUCLAの法科大学院で、略奪者や組織犯罪者との戦いにおいて、議論を超えてどう戦うかについて講演し、国際研究所とのインタビューにも応じました。 この議論は、UCLA ロースクールの国際人権プログラムによって行われ、UCLA アジア研究所、LexisNexis、公益法および政策プログラム、国際人権学生協会、および UCLA 国際法および外国法ジャーナルとの共催により行われました。

 

これをそのままにしていてるUCLAは無責任すぎます。コメ欄でも「彼女は嘘つき」という指摘がなされていますが、激賛するコメントに埋もれてますし、そもそもコメ欄までチェックする人は少ないでしょう。とくに埋め込みで観る場合。

騙されないリテラシーを身につけるためには、いったん信じて騙される体験をした方がいいとは言え、この動画を観て、寄付をする人たちが出てきてしまいそうです。

これに限らず、寄付をする前に検索しましょう。

なぜか日本語・中国語・韓国語など、東アジアの言語のWikipediaには項目がないですが、それ以外の主要言語ではソマリー・マムの項目があるので、参考にしてください。どの版でも、「虚言を弄する悪質な詐欺師」というべき人物であることがわかります。

以下は英語版Wikipediaを参照した上で、「Newsweek」2014年5月30日号掲載Somaly Mam: The Holy Saint (and Sinner) of Sex Traffickingなどの資料にも目を通してまとめたものです。

 

 

自身の経歴も、人身売買被害者の証言も、噓だらけ

 

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ソマリー・マムはカンボジアのモンドルキリ(Mondulkiri)州にあるスロック・クロイ(Thloc Chhroy)という農村で1970年あるいは1971年に生まれました(本人も正確に生年をわかっていないと言っている)。本名も不明(と本人は言っている)。今では、ここにNGO「AFESIP(Agir pour les Femmes ensituation Precaire)」のシェルターが設置されているため、政府高官、ジャーナリスト、著名人らが訪れる場所になっているそうです。

彼女は祖父の養子となって奴隷のように扱われ、虐待を受け、12歳の時に、祖父が酒とギャンブルで作った借金返済のために中国人に人身売買されて、プノンペンの売春宿で働かされ、車のバッテリーを使った電気拷問をされながら1日5人から6日の客をとる生活を約10年続けました。

彼女は売春宿で友だちを作りますが、その友だちは、経営者に歯向かったたため、銃で頭を撃たれて殺されます。彼女は自分の身も危ないと脱出。

1991年、フランス人のピエール・ルグロ(Pierre Legros)とプノンペンのディスコで出会います。彼は「国境なき医師団」の職員です。この時も彼女は売春稼業をしていたようです。

1993年に渡仏して彼と結婚、やっと人間らしい生活をすることができました(2008年に離婚。2004年になっているものもありますが、2008年が正しそう)。

 

 

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