松沢呉一のビバノン・ライフ

誇張・虚偽・不正会計でソマリー・マムは不動産を買い漁った—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち[海外編3]-(松沢呉一)

ソマリー・マムの経歴は完全な噓、人身売買の被害も捏造—善人・聖人・正義の人を装う悪人たち[海外編2]」の続きです。

 

 

ソマリー・マムの不動産への執着

 

vivanon_sentenceここまで書いてきたソマリー・マムの虚言は、アルジャジーラが映像で追認しています。

 

 

ソマリー・マム本人も登場。もはや言い逃れはできないと見て、誇張や虚偽があったことは一部認めながら、あとはしらを切ることにしたようです。手を組んだPR会社の提案か。

ここまで出てこなかった話としては、ソマリー・マムは多数の不動産を各地で購入し、理事も親族で固め、彼らもまた家を購入していた事実です。施設は資金不足で喘いでいたというのに。資金不足で喘いでいた方が寄付を集められて一挙両得か。

正規の給与だけでは購入できるはずがなく、経理に不正があったと推測されています。

また、財団運営の施設内で組織的に職員が収容者に性的交渉を求めていた事実も指摘されています。

こういった恥部を抗議した職員は解雇されるだけ。とんでもない団体です。

 

 

責任をとらない人々が新たな被害者を生み出している

 

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Newsweek」2014年5月30日号掲載Somaly Mam: The Holy Saint (and Sinner) of Sex Traffickingは非常に重要な指摘をしています。

アルジャジーラの「Truth or Lies: Somaly Mam」でも取り上げられていますが、2012年以降、彼女の虚偽が次々と暴かれる前から、ソマリー・マムを批判している他団体や研究者が複数存在していました。彼女が語るような例は前例がないと。虚偽であるとまでは言っていなかったかと思いますが、おそらくそう疑っていたでしょう。

このような活動は、悲惨な例を出せば出すほど金が集まります。被害者であることを強調すればするほど金が集まります。

いくら「そんなことは考えられない」と言っても、騙されたい人たちは耳を貸さない。荒唐無稽な話をすればするほど彼らは喜んで金を出す。メディアも著名人となったソマリー・マムは取り上げますが、それに対する無名の地味な団体や個人の意見は取り上げない。

彼女が売春をしていたのは、より稼ぐためでしょう。その結果、フランス人の夫をゲットすることもできたわけですが、より金を得るためには被害者であることが効果的であることを彼女はよくわかってました。「誘拐された」「売られた」「買われた」「拷問された」「強いられた」「(友人は)殺された」の受け身で自分の人生を偽造しました。

騙す方も騙す方なら騙される方も騙される方であり、「子どもと女は無能で無力であり、つねに救済の対象でしかない」という信念を強固にしてくれる存在を待ちわびています。それが噓だと指摘してもなかなか認めようとはしない。

ソマリー・マムの自伝The Road of Lost Innocence: The Story of a Cambodian Heroine」はオリジナルの仏語だけでなく、英語版、ドイツ語版、フランス語版、スペイン語版が今も出ているのに対して、彼女の実像を描いたものは一冊も出ていません。噓の本は売れても、それが噓だと指摘する本は売れない。

さっき気づいたのですが、邦訳も出てました。版元は文藝春秋。巧妙に書かれていたら、インチキ本だと気づけないのはやむを得ないですが、虚言者の本はどっかしら粗が出るものです。インチキ本の粗探しは得意なので、私だったら気づけるかも。わかんないけどさ。いまさら読む気もしないし。

前々回取り上げたUCLAの動画も、なんの注釈もなく出し続けられています。これをそのままにしているのは、ソマリー・マムは詐欺で捕まったわけでもなく、民事裁判で彼女の言うことは噓ばかりだと確定したわけではないためかもしれないのですが(よって私も「詐欺」「詐欺師」にはカッコをつけています)、だとしても、ここで語られていることは虚偽であると関与した人たちからも多数の証言が出ている以上、そのままにしておくべきではない。自分らが確認できるまで非公開にするか、公開したままにするなら疑問が提出されていることだけでも触れるべきでは?

ソマリー・マム著幼い娼婦だった私へ』 

 

 

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